読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

喜国雅彦/国樹由香「本格力」

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 ぼくの中で喜国雅彦氏といえば、ミステリマニアや古本マニアには堪らない「本棚探偵の冒険」を書いた人であって、決してミニスカートからのぞく女子高生の脚ばかり描いている変態漫画家ではないのである。ってか、「本棚探偵の冒険」読んで認識あらためたんだけどね。


 そんな喜国氏が細君である漫画家の国樹由香さんと共著として刊行したのが本書「本格力」なのである。これ雑誌「メフィスト」に2007年から2016年までの9年間連載されていた記事をまとめたもので、総ページ数500ページ以上にもなるけっこう分厚い本なのだ。内容はといえば、一番の目玉は古典ミステリを読んでその真価を問うという試みの「H-1グランプリ」、喜国氏が印象に残ったミステリのフレーズについて書くエッセイ「エンピツでなぞる美しいミステリ」、街角で見つけちゃったとにかくミステリな風景を切り取った「ミステリのある風景」、ミステリあるあるを相田みつを風に書きなぐった名言・格言集「ほんかくだもの」、マニアックな古典ミステリの一場面を挿絵として描いた「勝手に挿絵」、本棚探偵の日常風景を描く「国樹由香の本棚探偵の日常」と盛り沢山。


 ということでメインはやはり「H-1グランプリ」なのだが、これが毎回テーマを決めて何作か古典ミステリをピックアップし、そのなかから本当にお薦めしたい本を選ぶということで、実際、有名作でもある古典ミステリを現在の目で読んでみたらどういう感想を抱くのか?というなかなか重労働級の挑戦なのだが、ぼくもいまだに読めずに敬遠してるセイヤーズ「ナイン・テイラーズ」やイネス「ある詩人への挽歌」やカー「ビロードの悪魔」なんかもしっかり読み込んでいて参考になった。既読の作品については、評価が分かれる作品もあったりしておもしろい。それを読んだ当時はすごくおもしろく読んだけど、今読めばそうでもないのかな?と思ったりした。そういうことってあるよね?記憶の錯誤?改竄?そんなことないよね?だからぼくは、そういう本に対しては絶対再読したりしない。初めて読んだ時の感動が薄れるのが怖いからね。


 他の内容では「国樹由香の本棚探偵の日常」がおもしろかった。9年間に起こった喜国家の諸事情が網羅されてて興味深い。とくに飼われている犬に関する部分が喜びも悲しみもあって読んでいて一緒に一喜一憂してしまった。


 まことに愛すべき本棚探偵一家なのである。これからもこういう本は大歓迎だ。もっともっと読みたいと思ってしまうのである。