読書の愉楽

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鈴木大介「最貧困シングルマザー」

 

 

最貧困シングルマザー (朝日文庫)

最貧困シングルマザー (朝日文庫)

 

 

何が恵まれていて、何が正しくないのか、そんなことは誰にもわからない。当事者であってさえもだ。家族という小さな集まりがそこにあって、日々の営みが変わらず続いていく中でも幸せや絶望は確かに存在する。

しかし、ここで描かれる母子家庭の実態は現実を見据えていく中であまりにも救いがない状況に慄然とする。そういう状況に陥ってしまう負のスパイラルとでもいうべきある一定の条件。最終的にたどり着くのは、出会い系サイトでの売春。生活保護という究極の選択でさえ生きていく上で敗残者としての烙印(スティグマ)をおされてしまうのだ。いわば八方ふさがり、四面楚歌といってもいい。一概に決めつけてはいけないが、本来なら母も子も扶養者として守られる存在だ。家長としての父がいるという前提での話だが。資格も手に職もなく、容姿にも恵まれずそのほとんどが精神科の通院歴もある彼女たちは、確かに金銭面での援助も求めているが、それ以上に救いを求めている。かつて寄りそっていた男性からDV被害を受けていたとしても、出会い系に救いを求めてしまうのである。

著者の鈴木氏は、一年の取材期間にそういった出会い系で売春をするシングルマザーたちに会い、彼女たちの思いを共有し、その闇に取りこまれそうになりながらも、彼女たちの生活環境が少しでも改善するように努力した。根は深い。あまりにも深くちょっとやそっとでは掘り起こすことはできない。絵に描いたようにうまくはいかないのだ。

母と子。母はお腹を痛めた自分の分身ともいうべき子を必死で守ろうとする。社会の波から、口さがない世間の波から、逆風ともいうべき世の中での生き辛さから我が子が少しでも満たされた状態で生活できるよう努力を重ねる。自分がどれたけ辛い思いをしても、どれだけしんどくても子どもが苦しまないでいれるなら、それでいい。そうやって必死に子を守る母。でも、お母さん、母が子を守るのではなく、子が母を生かしているんだね。ぼくは、涙を流しながらそう思ったんだよ。