読書の愉楽

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小島美羽「時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし」

 孤独死の現場の惨状を平常に戻す特殊清掃と遺品整理を生業にする著者(二十七歳の女性である)が、写真では生々しいし、話や文章だけではリアルさが伝わらないしということで制作した現場のミニチュア作品と共に自分が見てきた現状を伝える良書である。

 まず驚くのは、なんの経験もない著者が精巧なミニチュアを作っていること。これは、センスだけでは無理だと思うのだが、おそらく素質はあったんだろうね。彼女の作るミニチュアは、それはそれは緻密なもので、例えばゴミ屋敷化した部屋を再現したものでは小さなポカリのペットボトルやセブンイレブンのパンの空袋、カップラーメンの蓋などが正確に再現されていて驚く。また、トイレや浴室で孤独死された方のミニチュアでは、染み出た体液の生々しい跡が再現されていて現場の凄さが視覚に直接訴えてくる。

 著者が訪れるこうした遺品整理や特殊清掃の現場は、年間三百七十件以上あるという。この数字を見てどれだけこういったケースが多いんだと驚く。全国でみれば、年間で約三万人が孤独死しているのだそうだ。その数の多さに愕然としてしまう。孤独死といっても、そのシチュエーションは様々で、一人暮しをしている老人が誰にも看取られず亡くなるものから、自死、若くして突然死するものなど多岐にわたる。現場の状況もそれぞれその人たちの人生を反映したもので、完璧でないにしても後を汚さないようできる限り配慮したものから、ペットを飼っている主人だけが亡くなって、残されたペットたちが酷い状態で見つかるケースや、足の踏み場もないゴミ屋敷まで。

 ただの模型なのに、そこには圧倒的なリアリティによって完璧に再現された孤独死の現場がある。まるで臭いまで伝わってきそうな、かつては生活が営まれていたそれらの部屋。著者は、これらの現状を少しでも多くの人に知ってもらうためにミニチュアを作り続けている。

 誰もが知らない、また知りたくないと思っているこの現実。幸せが溢れる現代でこのような異常な事態が起こっている現実。死というものに真っ向から向き合っている彼女だからこそ伝えることのできる現実。すべていま起こっていることであり、同じ現実なのだ。そのことに気づいてぼくは本を閉じた。

 

時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし

時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし

  • 作者:小島 美羽
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)