読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジュディ・ダットン「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」

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 このタイトルとサブタイトルをみて専門外だと思った人は、ちょっと待っていただきたい。本書はそう思った人にこそ読んでいただきたい本なのだ。ぼく自身も完全な文系で、数学や物理学は学生時代から本当に苦手だった。だからいまだにSF小説は読む割合が少ないのだ。

 

 そんなぼくでも興味深く読むことができる本が本書「理系の子」なのである。本書は、世界中の予選を勝ち抜いた真の科学の天才高校生が集うインテル国際学生科学フェアに出場した少年少女たちのさまざまな境遇を描いている。

 

 核融合炉を作りだした少年、貧しくて暖房のない家で喘息に苦しむ妹のためにゴミ捨て場から拾ってきた廃材で太陽熱を利用した暖房器具を作った少年、ハンセン病になったことをきっかけに、その病の研究をした少女などなどここで描かれるそれぞれのエピソードは興味深く、読んでいてとても心惹かれるものばかりなのだ。科学というとちょっと身構えてしまうが、要するに大事なのは探究心。どうしてそうなるのか?いったいどうやってそういう結果になったのか?その過程を興味深く観察し、考察し、検討し、答えを導きだすことが新たな発見につながってゆくのである。そこにはやはり、忍耐と努力とそしてわずかなひらめきが必要だったりするのだが、彼もしくは彼女たちはその困難を乗り越え(どうしても乗り越えなければ、将来への道がふさがれてしまうという切実な境遇にいる子もいるのだ)栄光を手にしてゆく。その過程は感動を呼びおこす。そういった前向きな努力は心の底からの共感と活力を呼びさます。

 

 本書を読む悦びはそこにある。真剣に物事にうちこめばおのずと道は拓けていったりするものなのだ。まさに、その時、その場所にいたからこそ運命の歯車が動き出したような大きな転換期が向こうから近づいてくることがあるのだ。おもしろいことに、本書を読んでいると、そのような科学では割り切れない運命のようなものを感じたりもする。

 

 だから人生っておもしろいんだよね。本書を読み終わって、幾つになっても錆びつかない心をもっていたいものだと思った。それって大事なことなんだよ。