読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中村和恵「地上の飯 皿めぐり航海記」

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 食に関するエッセイだと思っていたのだが、それだけではなかった。著者の中村和恵さんは日本だけでなくモスクワ、メルボルン、ロンドンにも住んでいたことがあるそうで、その後も世界各国を周って様々な国の文化に触れてきたらしく、われわれの知らないめずらしい事物に数多く接してこられたそうな。

 

 だからその言質は実際にそれらを体験してきた確信と自信に満ちたもので、読んでいてもそれがひしひしと伝わってきた。この人の書く文章はまわりくどいところがあってそれが持ち味なのだろうが、ぼくはちょっと苦手だった。それでも内容はすこぶる興味深く、先にも書いたが食だけにとどまらず、文化人類学的見地からみた世の中の成り立ち、歴史的見地からみた世界経済の潮流、そして人類の最大の敵である差別の問題までするすると平易に切り込んでゆくのである。ぼくとしては、その合間に挿入される海外文学の話がかなりおもしろく、出てくる本もクレオールやロシア、ドイツ、インドなどのいわば主流である英米文学以外の本ばかりなのがとても新鮮だった。

 

 もっともタイトルから推察される食に関する話も魅力的で、南インドの朝ごはんイディリにはじまりパンの実、塩魚ケーキ、魚汁、幼虫を煎ったもの、そして食人の話まで想像もつかないうまそうなものから躊躇したくなるようなものまで未知のものが沢山紹介されていて興味深かった。

 

 この世の中にはまだまだ知らないことが山ほどある。こういう本を読むとそんな当たり前のことを強く意識するようになる。もっともっといろんなことを知って、経験したい。そう強く思うのである。