読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

三橋淳「昆虫食古今東西」

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 昆虫というと嫌悪をしめす人が多い。あきらかに動物とは違う形状に、あの無機質で機械的な動作が受け入れがたいのだろう。ぼくは虫に対してさほど抵抗はない。田舎に住んでいたので幼少の頃から虫はいつも周りにいた。また、それらの虫を使って様々な実験観察もした。蜘蛛の巣に蝶をひっかけて糸でグルグル巻きにするところや、セミが羽化するところや、捕まえたカマキリの尻からハリガネムシがニョロニョロはいだしてくるところや、アリが大きな虫の死骸を解体して運んでゆくところなど、毎日毎日虫を飽きずに見ていた。これは田舎者の特権というべきもので、自然に近い場所にいる人間なら誰でも体験することなのだ。しかし、そんな田舎者の中でも実際に虫を食べたことがある人はいまの時代さほどいないのではないだろうか。ぼく自身はハチの子を食べたことがある。これはアシナガバチなどの巣を取って、そのまま食べていた。なかなか甘くてクリーミーな味がした。ハチの子やイナゴは日本では普通に食べられている昆虫食であり、いまでも商品として売られている。その他にも本書には川にいるカワゲラ類の幼虫ザザムシや、ヘビトンボの幼虫 孫太郎虫などが商品として流通していると紹介されている。食べる機会があれば、口にしてみたいものだ。

 

 本書を読んでいると、世界各国の昆虫食事情がまるっとするっとすべてお見通し状態になる。ほとんどの国で昆虫が食べられており、およそ似通った種類のものが調理方法は異なれど各国で食されているのだとわかる。ポピュラーなところではやはりバッタと幼虫類だ。特にカミキリムシやサゴヤシに発生するヤシオサゾウムシの幼虫は体長も大きく味もいいらしい。驚くのは、甲虫の幼虫だけでなく成虫も食べられているということ。昔、映画「インディ・ジョーンズ」でカブトムシの腹を美味しそうに食べるシーンがあってびっくりしたが、本当に食べられていたのだ。あとちょっと受け入れがたいのが、お互いのアタマジラミをとって食べる行為が諸国の民族で結構普通に行われていたらしい。猿のグルーミングはよく聞くが、人間も同じことをしているのだ。シロアリも結構食べられている。生で食べたり、ローストしたり、これは栄養価も高いらしい。驚くのがパプア・ニューギニアの高地先住民で、彼らは60年代頃まで人肉食を続けていて、死体にわくウジムシに火をとおして食べていたそうな、ブルブル。ウジといえばアラスカ北部のヌナミウト族はトナカイに寄生するウシバエを生のまま食べているらしい。やはり幼虫は貴重なタンパク源なのだ。

 

 少し前にテレビで観たのだが、南米ではあのカメムシを食べている。火を通してあって香ばしく美味しいらしい。しかし、ぼくにはそれが信じられない。なぜならぼくは小学二年の頃にカメムシを食べたことがあるからだ。あのときの体験はかなり強烈で、不惑をすぎたいまになっても鮮明に覚えている。カメムシは給食のカレーうどんの中に混入していた。ぼくは知らずそれを口に入れ噛み砕いてしまったのだ。あのカメムシ特有の強烈な臭気が一気に口の中に広がり、眼が裏返るかと思った。勢いでそのまま飲み下してしまったが、あの途方もない臭みのあるカメムシを食べるなんて本当に信じられない。

 

 と、奇特にもここまで読んでこられたみなさん、最後に一つ驚く事実をお知らせしよう。みなさん、虫なんて絶対食べられないと嫌悪感もあらたに読んでこられたと思うが、未然に防ぐことのできない昆虫の食品に対する混入の許容レベルが定められているのでその一部をここで紹介したいと思う。アメリカの指針だけどね。

 

 ・柑橘類ジュース250ml中 ショウジョウバエまたは他のハエ類卵5個、あるいはハ           エ類幼虫1匹

 

 ・カレー粉25g中 昆虫のかけら100個

 

 ・ピーナッツバター100g中 昆虫断片30個

 

 ・トマトジュース100g中 少なくとも12サンプルについて、ショウジョウバエの卵10個、あるいは卵5
  個と幼虫1匹、あるいは幼虫だけ2匹

 

 ・小麦粉50g中 昆虫断片75個

 

 どうですかみなさん、知らないだけで私たちは皆、虫食べてるんですね^^。