読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

丸谷才一「快楽としての読書 海外編」

 

 

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

  • 作者:丸谷 才一
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 文庫
 

 

 
ずいぶん長い時間をかけて読んだのだが、これはおもしろかった。何がおもしろいといって、評者が丸谷才一だというのが、まず一点。この小説巧者であり希代の小説読みが書評を書いているのだからおもしろくないわけがない。でも、だからこそ本書を読むには、ある一定の文学や歴史などに対する基礎知識が求められるんだけどね。なんてエラそうに書いているぼくにしたって、この中にまるっきりわからない事柄なんて沢山あったけど。

 でも、それでもおもしろい。丸谷才一の魅力以外にもここで取り上げられている本自体のおもしろさ(まだ、読んでないにもかかわらず)もかなりウェイトをしめている。もちろんそれはひとえに丸谷才一の紹介が巧みだからなのだけどね。ここで取り上げられている本の中で、この本を読んでないと気にもとめなかったろう本をあげると
 
 「インタヴューズ」クリストファー・シルヴェスター編

 「ジャマイカの烈風」リチャード・ヒューズ
 
 「バラントレーの若殿」スティーヴンスン

 「ローマ皇帝伝」スエトニウス

 「同時代史」タキトゥス

 「大転落」イーヴリン・ウォー

 などなど。ほんと、本書を読んでないと素通りしてただろうね。しかし、丸谷評を読んじゃうと、もうムズムズしてしまうのである。こう、なんというか、落ち着かなるというか、浮足立つというか、ジッとしていられないような感じになっちゃうのである。

 まじめな話、小説だけに限らない膨大な読書がもたらす成果があって、その上に成り立つゆるぎない信念と計り知れない知識があり、足元にも及ばない圧倒的な書評の大波にさらわれてしまう。ぼくは漂った。ほんと漂った。真にして、柔軟な思考と評価は、方法論としての体系を明確にしているし、そうか、そういう意味があったのか、そういう経緯をへて成り立っているのかと何度も驚いた。ほんと、すごいよね、この人。

 日本編もあるみたいだし、そのうちまた読んでみよう。