読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

福田栄一「エンド・クレジットに最適な夏」

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「本が好き!」の献本第7弾。

 

 デビュー作の「A HAPPY LUCKY MAN」がことのほかおもしろく、この人はミステリも書ける人なんじゃないかと思っていたら、やはり出ました。それも老舗の東京創元社ミステリ・フロンティアからである。そうかと思えば講談社ノベルズから「監禁」なんて本も出たし、この人ほんとにミステリに転向するのだろうか?

 

 それは、まあ置いといて本書である。読む前から本書も「A HAPPY LUCKY MAN」と同じ体裁だということはわかっていた。主人公の大学生がトラブルシューターとして様々な難題を解決していくという一種のモジュラー型なのだが本書がデビュー作と大きく違うのは、主人公の大学生が元不良の肝の据わった男だということだ。ここに登場する晴也は、まるでI.W.G.Pのマコトのようだ。クールで冷静で、判断に狂いはない。しかし、そのキャラクター造形が本書のおもしろさを半減しているのは確かである。先の「A HAPPY LUCKY MAN」ではユーモアが全編に漂っていて、それがほどよいクッションになり物語に彩りを添えていた。扱われる問題や事件についても、それほど深刻なものはなくそういった点で傍観者視点にとって肩の凝らないおもしろさが横溢していた。だが、本書はミステリというフレームの中で物語を構築しようとした分そういった遊びの部分が削ぎ落とされ、本来の持ち味だとおもわれるユーモアが影を潜めた形になってしまった。それが第一の違和感として残った。

 

 しかし、話自体はおもしろい。相変わらず事件が連鎖的に絡まっていくところなどはうまく捌いていて飽きさせないし、ミステリ的な伏線もあったりして楽しめる。このへんの呼吸はやはりたいしたもので、この人やっぱり実力はあるんだなと実感する。だからこのプロットはそのままに、デビュー作のような平凡なキャラを立て、もっと地に足のついた設定で描いてくれれば文句なしの作品に仕上がっていたと思うのである。どっちが好きかといわれれば、ぼくはデビュー作に軍配を上げる。

 

 ミステリ的な趣向としては本書のほうが上手であったとしても、やはりあちらのほうがおもしろかった。

 

 冴さんも言っておられたが、この主人公の背景がなんとも含みがあるようなので、その部分だけが浮いてしまっている。それが解消されてれば、もっといい作品になっていたと思うのである。

 

 でも、やっぱり、ぼくはこの人の作品が好きだ。これからも読んでいこうと思う。