読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

樋口有介「ともだち」

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 これはいままで読んだ二冊とは少し感触が違った。なにしろ主人公である女子高生、神子上(みこがみ)さやかは、剣の達人なのである。時代小説好きなら神子上という苗字を見てピンとくるかもしれないがなにをかくそうさやかの流派の始祖は、あの神子上典膳なのである。伊藤一刀斎を師と仰ぎ、徳川家の兵法指南役にまで登りつめたのちの小野忠明その人だ。なんとも大胆な設定ではないか。

 そんな凄い人物を祖先にもつさやかの祖父、神子上忠世無風斎は神子上一刀流の達人で、こちらも平成の剣聖とまでいわれた人物。若い頃は目隠しをしたまま隣町まで自転車を走らせたなんていう心眼の持ち主だが、いまでは盛況だった道場も閉め孫とかわらぬ歳の彼女とイチャつき、飄々とした好々爺となっている。 

 本書の前半は事件部分も描かれるのだが、このさやかを中心とした剣戟場面が結構あったりしてなんとも妙な感じである。だから、全体的にどこか分散した印象なのだ。細かな設定がうまく噛みあってない感じで居心地が悪い。奇を衒いにいくわけでもなく物語は淡々と進められ、はっきりいって意図がつかめない。描かれる犯罪自体は女子高生連続暴行事件であって、ミステリ的な趣向も結構しっかり構築してあるのになんとも惜しいことである。青春物としてのホロ苦いテイストでさえ、あまり感じられなかった。

 さやかにしても、相方となる間宮祐一にしても境遇自体結構重たいものがあって、そこらへんにはいつもの匂いがあったのだが、それがあまり物語に反映されてない気もした。

 残念だが、本書は樋口作品初の駄本ということで結論させていただく。

 でも、これからも読んでくけどね。