読書の愉楽

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山田正紀「阿弥陀(パズル)」

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 ぼくにとって鬼門である山田正紀なのだが、本書はシンプルな謎と藤田新策の表紙に惹かれて、ついつい手にとってしまった。

 そう、本書の謎はまことにシンプルだ。十五階建てのビルから人間が一人消失してしまうのである。ビルには監視カメラが多数設置されており、それを避けて外に出ることは不可能。一階から十二階までの直通エレベーターに乗った女性は、まるで煙のように消えうせてしまったのである。いってみれば、密室からの人間消失だ。なかなか魅力的な謎ではないか。わくわくしてしまう。

 そしてその謎を解くのが、超論理的な思考能力をもつ風水火那子。彼女の推理はデータに基づいて論証する帰納法で、頼もしいことこの上ない。そんな彼女とこの謎を追うのがビルの警備をしている「大関東警備保障株式会社」の警備員檜山と倉本だ。火那子は彼らから事件のデータを得て推理をすすめていくのだが、一見重要でないような些細な事実が謎の解明に大いに役立つところなどは、ミステリとしての醍醐味を充分味わわせてくれる。例えばそれは電池の切れたたまごっちであったり、エレベーターの中に落ちていた固く折りたたんだ新聞記事であったりするのだが、そこらへんの扱いは大いに好感がもてる。

 シンプルな謎に対して、次々とあらわれてくる新事実と覆される推理。ミステリの常套を踏んで展開される物語は、純粋推理の輝きに満ちている。

 だがしかし、やはり賛辞一色で終わらないのが山田正紀なのである。

 まず、語り手である警備員檜山の語り口がきらいだ。時に饒舌になる脱線が余計である。そして最大の不満は、人間消失の真相だ。これではあのマクドナルド「ウィチャリー家の女」と同じではないか。ニーリィ「心ひき裂かれて」と同じではないか。ここまで言えば、その二作を読まれた方ならピンとくるだろう。

 というわけで、本書は現実的でないという点において大いに不満をつのらせる真相となっている。でも、それまでの過程はとてもおもしろかったといえる。やはり不可能物は、パーフェクトにはいかないものなのだなぁ。