読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-01-01から1年間の記事一覧

こんな世界で

数珠つながりに連想する不埒な幻想 鏡に映るぼくの眼は死んでいて 最近では感動すら宇宙の果てに遠ざかってしまった 頭の中の不安なぼくと 心の中の短気なぼく どちらが勝ってもままならない 世間の風はいつもぼくを攻めるけど 誰も知らない 知ろうともしな…

山之内正文「エンドコールメッセージ」

この人の作品は、ブログ仲間の間ではそれほどいい評価をもらってなかった気がする。とりあえず初めての作家さんはデビュー作を読んでみるという定石を踏んで本書を手にとった。 本書には四編の短編がおさめられている。それぞれおもしろくミステリとしてのカ…

清水義範「ターゲット」

清水義範がこんな本を書いてたなんて知らなかった。うっかり見落としてたなぁ。平成12年かぁ。ついこのあいだじゃん。T・ハリスの「ハンニバル」と一緒に刊行されてるから、店頭で見てたはずなんだけどなぁ。まったく記憶にないや。この藤田新策の表紙は…

スティーヴン・キング「図書館警察」

キングの短編が、なんともお粗末なシロモノだということは何度も書いてきた。中には 「道路ウィルスは北にむかう」なんてゾクゾクするような作品もあるのだが、総じて彼の短編はB級作品のオンパレードである。やはりキングの真骨頂はその執拗な書き込みであ…

三雲岳斗「聖遺の天使」

この人ラノベから出てきた人だけど、本物だね。初めて読んだ本書で確信した。だって、15世紀のイタリアを舞台に、これだけしっかりしたミステリ書いてんだもん、こりゃ本物だわ。まして探偵役は、あのダ・ヴィンチときたもんだ。う~ん、素晴らしいぞ。 そ…

吉村萬壱「ハリガネムシ」

この感触はなんだろう?とずっと思いながら読んでいた。とても短い作品でもあり、すごく読みやすいの で、あっという間に読み終えてしまうのだが、これがなかなかどうして結構ガッチリと心に食い込んでく るのである。しかし、それはいい意味での食い込みで…

藤谷治「恋するたなだ君」

本書は「夜は短し歩けよ乙女」と非常に似通っている。といっても刊行されたのは本書のほうが先なのでこっちが本家本元というわけだ。しかし、似通った設定とはいえ本書も独自のカラーをもっており、無類におもしろかった。タイトルからもわかるとおり本書の…

捨てられる子

地下街は初めてだった。地面の下にこんなに明るくてきれいな店がたくさんあって、こんなに多くの人がいるなんてまったく知らなかった。 ぼくは母に手をひかれて駆けるように歩いてる。見上げた母の顔はいつもと違ってとても険しく、化粧もいつもより濃い感じ…

島本理生「ナラタージュ」

ここのINDEX書庫にもあるとおり、お誘いを受けてブログランキングのサイト『ブログウェブ』に参加さ せてもらってるのだが、そこの文学・カルチャー/文学カテゴリーで現在1位になってるサイトで 石畳の彼方の時計塔へというのがある。たまたまどんな ブロ…

フィリップ・K・ディック「流れよわが涙、と警官は言った」

本書のラストでの一場面は、なんでもない場面ながら妙に心に残る。人間の悲しみゆえの衝動がうまく描かれていると思う。そこに配されているのが黒人というのも絵になる。 しかし、本書には見事に裏切られた。読む前は『存在しない男』となった主人公が日常を…

荻原浩「母恋旅烏」

最近、こういう話を良いと思える自分が結構好きだったりする。こういう話とは、家族を描いて涙と笑い を誘い人情を押し付けないで万遍なく行渡らせた話である。読んでいてとても楽しい。 それはやはり自分と同じ立場にいる人間が多く登場するからなのだろう…

古本購入記 2007年4月度

恒例の月末古本購入記録である。はやいね。もう一ヵ月たっちゃった。しかし、今月はいつもより大分少 なかった。このごろは少し賢くなって、以前のように手当たりしだい買わないようになったからなぁ。 まっ、先立つものがないっていうのも大きな要因だけど…

マイク・レズニック「第二の接触」

この人の書くものは安心して読めるから好きだ。レズニックはSF作家ではあるが、その前にたいした小説家なのである。前に紹介した「アイヴォリー」などはそんな彼の、どちらかといえば重厚な面が強調された読み応え充分なSF大作だったが、本書はうってか…

樋口有介「風少女」

樋口有介はデビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」を読んだっきりで、いままで一冊も読まずにきてしまった。「ぼくと、ぼくらの夏」は素晴らしい青春ミステリで、読んだ当時はとても感心したのにどうしてそういうことになったのかというと、第二作である本書が…

ヒラリィ・ウォー「生まれながらの犠牲者」

ヒラリィ・ウォーといえばやはり「失踪当時の服装は」が大変有名なのだが、生憎それは読んだことがない。だから、本書を読むまではヒラリィ・ウォーとアンドリュー・ガーヴを混同してしまうくらい浅い認識しかなかった。ぼくはこの作家の混同というのをよく…

赤城毅「書物狩人」

古本好きにはたまらない内容なのかと思いきや当初の思惑からは逸れてしまったが、なかなか興味深い内容だった。『書物狩人』とは世間に出れば大事になりかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法問わず、あらゆる手段を用いて入手する本の世界の究極的存在な…

テリー・ビッスン「ふたりジャネット」

河出の奇想コレクションは、こういった選集の嚆矢ともいえる早川の『異色作家短編集』と双璧を成す選集に育ちつつある。このシリーズが出た当初はこれだけ素晴らしい選集になるとは思ってもみなかった。 本書はそんな傑作選集の第三弾として刊行された。正直…

桐野夏生「OUT」

いまアメリカで英訳出版された「グロテスク」が大変話題になっているそうである。いやあ、すごいことだなぁ。日本の作家の本が海外で話題になるのは、それが贔屓の作家でなくともなんとなくうれしいものだ。桐野夏生は他にも全世界的なプロジェクトである<…

ジェフリー・ディーヴァー「静寂の叫び」

ジェフリー・ディーヴァーを全然読んでなかったりする。あの超有名なリンカーン・ライムのシリーズも一冊も読んでない。というか、ディーヴァーに代表されるミステリーや所謂エンターティメント作品に関して、とんと疎くなってしまっている。だからマイクル…

戸坂康ニ「グリーン車の子供」

とりあえず収録作を挙げておこう。◆「滝に誘う女」◆「隣家の消息」◆「美少年の死」◆「グリーン車の子供」◆「日本のミミ」◆「妹の縁談」◆「お初さんの逮夜」◆「梅の小枝」◆「子役の病気」◆「二枚目の虫歯」◆「神かくし」 以上11編である。今回はじめてこの…

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「失われた部屋」

ポーとビアスを架橋する作家なんていわれている。この人が活躍した当時はまさしく時代の寵児となり、文名を馳せたそうだが、今ではあちらでもこちらでも、もう忘れさられた作家である。 しかし本書に収録されている十作品を読んでみると、これが案外イケてた…

「自選アンソロジー ミステリ編」追記

自選ミステリアンソロジーの記事をアップする際、各作品について現在読むことのできる種本も一緒に掲載しようとしたのですがどうも饒舌に語りすぎたみたいで5000字の字数制限に引っかかってしまってやむなくカットしてしまいました。でもやはり心残りな…

「自選アンソロジー ミステリ編」

オリジナルアンソロジーを編纂するという試みはやはりとても楽しいもので、ほんとこういう仕事を一生に一度はしてみたいもんだと思うほど楽しい作業でした。だから、調子にのって前回のホラーアンソロジーに続いてミステリーアンソロジーも考えてみました。…

鼻血おばさん

※ みなさん、注意してください。一部グロい描写があります。 図書館の中はシンとして、誰かが空咳をする音が時々聞こえるだけだった。 ぼくはどうしたことか、とても大きい図版入りの皮装丁の本をめくっている。描かれている絵は本と同じ くしてとても古めか…

アンソロジーを編む

しろねこさんからバトンを頂きました。続編を所望する作品名や自分でアンソロジーを編纂するなら、どんなものにするかなんて本読みにとっては非常に魅力的な質問ばかりなので、ぼくもやってみることにしました^^。 質問は以下の三つ。 Q1. どうしても続編…

野村美月「文学少女と繋がれた愚者」

※ 今回の感想はネタバレはしてませんが、読んだ人しかわからない内容にも触れています。 シリーズ三作目ともなると、もうこちらも古巣に帰ってきたような安心感がある。あの馴染み深いキャラ たちにまた会えるんだと少し浮き足立った気持ちで本を開くのであ…

父から息子へ

自分に素直になりなさい 他人が自分のことを、どう思うかなんて気にしなくていい 自分が信じることを貫きなさい それで、もし打ちすえられるようなことがあったとしても そのときは歯を食いしばって耐えなさい 心に不安があるときも 自分が信じることを貫き…

トルーマン・カポーティ「誕生日の子どもたち」

カポーティといえば忘れられない映画がある。ぼくの大好きな映画なのだが、そこで素晴らしいハイテンションでもって怪演していた彼の姿が忘れられないのだ。 その映画とは1976年に公開された「名探偵登場」である。これがなかなか楽しい映画で、ミステリ…

福田栄一「A HAPPY LUCKY MAN」

新人のデビュー作を読むのはおもしろい。でもその反面、山のものとも海のものとも知れない不安感も常 につきまとっている。だから新人のデビュー作に手を出すのは、いわば一種の博打のようなものなのだ。 本書は光文社文庫の最新刊として書店に並んでいた。…

ドラクロア

きみのその白い腕をぼくの首に絡めて 柔らかくて、すべすべしたきみの肌を感じたいんだ いい匂いのするきみのすべてをぼくのものにしたい ときどき訳がわからなくなるんだ きみをどうにかしてしまいそうになる もどかしい気持ちに自分を抑えられなくなる 許…