文春文庫から出てたホラー・アンソロジーである。
簡単に各編の寸評いってみよう。
◆ スティーヴン・キング「レベッカ・ポールソンのお告げ」
これを読んであの「トミー・ノッカーズ」がかなり不気味な作品だったんだなぁということに気づいた。この短編はあの長編の中のまるまる一章分をそのまま抜粋したものなのだが、こうやって読んでみるとこれをいったいどういうジャンルに分類したらいいんだろうと悩んでしまった^^。
◆ ヴァレリー・マーティン「海の恋人たち」
詩のような雰囲気をもっているが、描写は生々しくて海の生臭さをガツンと鼻先にくらったような感じだった。小品ながらインパクト大。
◆ ルース・レンデル「輝ける未来」
寸劇である。夫と妻と、その場には姿を見せない夫の愛人が静かに漂っている。妻の憎悪と空回りの努力は、やがて血のカーテンによって閉じられる。
◆ T.L.パーキンソン「山に戻った虎男」
いきなり物語の渦中へたたきこまれ、あれよあれよという間にラストを迎えた。無駄な説明はいっさい省いてあるが、その潔さが好ましい。
◆ パトリック・マグラア「吸血鬼クリーヴ、すなわち、ゴシック風田園曲」
いかにも現代風な吸血鬼譚だ。事の真相はいかに?それは読んでる人の心の中にあるのだ。
◆ キャロリン・バンクス「悪魔のエステ・サロン」
これは邦題がいけない。この邦題だとラストのオチがみえみえではないか。しかし、それを差し引いてもこの作品に魅力はない。
◆ ハリエット・ジネス「天使の翼」
これもなかなか詩的な話だ。聖なるものとの生々しいセックス。この相反する二つは、ほんとうは真実なのかもしれない。
◆ ジョナサン・キャロル「あなたの中の他人」
ほんの些細なことがきっかけで、人は狂気に陥るものなのである。キャロルはウマイねぇ。
◆ クリストファー・ファウラー「建築請負師」
単純でストレートなサスペンス。映画でありそうな話だ。でも変にいじくってない分、素直に楽しめた。
◆ トーマス・M.ディッシュ「死神と独身女」
どことなくユーモラスな作品。しかし、こんな展開になるとは思ってもみなかった。人は腹をくくると強くなれるものなのだ。
◆ アンジェラ・カーター「ご主人様」
幻想的である。大人のための『ちび黒サンボ』だ。ちょっと血腥いけどね。
◆ ステファン・R.ドナルドソン「征服者の虫」
カットバックして、物語は終結する。登場するのは、あの悪の虫ムカデだ。
◆ クライヴ・バーカー「ジャクリーン・エス―彼女の意志と遺言」
おぞましい話である。映画『アルタード・ステイツ』や『ザ・フライⅡ』のあのグチョグチョの犬を思い出してしまった。つけくわえるならばカーペンターの『遊星からの物体X』のあの物体Xを思い出した。まったくもって血と粘液にまみれたスプラッターホラーだ。
とういうわけで、以上13編。このアンソロジーはなかなか楽しめますぞ。