◆ 今回の夢はいつになく長いので、今日と明日の二回に分けてお送りいたします。
魂泥棒が出没するとても危険な世界である。誰もがいつ魂を盗られるのかと、おびえて暮らしている。
ぼくも、怖くて怖くて仕方がない。だから物知りばあさんの家まで行くことにした。
おばあさんの家に着くと早速たずねてみる。
「おばあさん、いきなりなんですが魂を盗られないようにするにはどうすればいいんでしょうか?」
薄暗い和室の中で読めない字が書いてある掛け軸をバックに、おばあさんはズズーッとお茶をすすってか
らやさしく微笑んで「それは簡単だ。左側の腎臓に、あんたの魂の九割を隠しておけばいいんだよ」
と言った。
「じゃあ、残った一割はどうするのですか?」
「あんた、発情期のブタみたいに頭が薄いね。そんなこたぁ、訊かなくてもわかるでしょうに。あとの一
割であんたを動かすんじゃよ」
「でも、一割だけじゃ普通に生活できないんじゃないですか?」
「それでも、魂盗られるよりはマシでしょうに」
「そりゃあ、そうですけど・・・・・その一割も盗られちゃったらどうするんですか?」
「それは、囮なんだよ。一割は盗らせるためにあるのさ。盗みたけりゃ、盗ませたらいいんだよ。あんた
ほんとに芸するオットセイみたいにマヌケだねぇ」
いささかムッとしながら、ぼくは途方に暮れた。魂盗られたら死んじゃうじゃないの。
そんなぼくを見て、おばあさんはやさしく言った。
「あんた魂を盗られたらそれで終りだと思っとるようだが、それは違うよ。盗られた魂は一割だろう?
そのために九割腎臓に隠してあるんだよ。その九割があれば、魂は元通りになるんじゃよ。心配しなさん
な。私の言うとおりにしてりゃ、大丈夫だよ」
「へ?そうなんですか?じゃあ、そのやり方なら絶対、絶対、絶対だいじょうぶですね!もう怖がること
はないのですね」ぼくは小躍りして喜んだ。
「カアーーーッッ!!!」いきなりばあさんは大声を出した。ぼくはその場に凍りついた。
「その変な踊りはやめなさい。世の中には絶対なんてことはないんだよ。あたしが今言った方法は、その
場しのぎで一度に五人も十人も泥棒がやってくれば、ひとたまりもないわい」
天国から地獄とはこのことだ。ぼくはまた意気消沈してたずねた。
「では、どうすればいいんです?これじゃあ、ゆっくり眠ることもできないや」
「まあ、まあ、落ち着け。今言った方法とこれから言う方法を合わせれば、まずだいじょうぶ」
そう言って、ズズーッとお茶をすする。落ち着きはらった態度が腹立つな、もう!
待ちきれなくてぼくは身を乗り出しておばあさんにたずねた。
「それは、いったいどんな方法なんです?」