栗本薫愛するところの『耽美小説』ばかり集めたアンソロジーである。
これは日本ペンクラブが編纂していたアンソロジー集「日本名作シリーズ」の一冊であり、現在でも売られているのかどうか知らないが、それぞれのテーマをもったアンソロジーがその分野に明るい選者によって選びぬかれたなかなかユニークなアンソロジー集であった。その中では半村良・選の「幻想小説名作選」と筒井康隆・編の「実験小説名作選」というのを読んだが、ツボをおさえたセレクションでそれぞれ楽しめたのは言うまでもない。まだ読んでないアンソロジーにも藤本義一・選の「心中小説名作選」や池波正太郎・選の「捕物小説名作選」、眉村卓・選「幻覚のメロディ」、佐野洋・選「最大の殺人」などなどがあり、絶版だったらどうにかして手に入れたいと思っている^^。
で、今回紹介するのが栗本薫・選の「いま、危険な愛に目覚めて」なのである。
収録作品は以下のとおり。
◎ 川端康成 「片腕」
◎ 江戸川乱歩 「踊る一寸法師」
◎ 栗本薫 「侏儒」
◎ 赤江瀑 「獣林寺妖変」
◎ 司馬遼太郎 「前髪の惣三郎」
◎ 筒井康隆 「会いたい」
◎ 連城三紀彦 「カイン」
◎ 宇能鴻一郎 「公衆便所の聖者」
◎ 小松左京 「星殺し」
◎ 森茉莉 「日曜日には僕は行かない」
なかなかバラエティに富んだセレクションではないか。
本来なら、それぞれの作品について軽く感想をかくのだが、それをすると長くなりそうなので割愛。
とにかく、よくこれだけ集められたなと感心してしまう。この中のほとんどが今でも他の本で気軽に読める作品だ。だが、栗本薫、宇能鴻一郎、森茉莉の作品は、いまでは本書でしか読めないのではないだろうかと思われる。特別に興味を惹かれた方は本書にあたっていただきたい。「侏儒」は乱歩が書いていたとしてもおかしくない幻妖ミステリ短編。「公衆便所の聖者」は奇妙な感触を残すルポ的な作品。
こんな世界があるのだ。まったく縁のない世界ながら、読んでいて不快感はそれほどわかなかった。
「日曜日には僕は行かない」はその丹精な筆勢にためいきの出るような作品。一字一句疎かにはされていない磨き抜かれた文章を堪能した。
というわけで、普段読むことのない『耽美』の世界を十二分に味わうことのできるこのアンソロジーはぼくみたいな人間にはある意味カルチャー・ショックであった。
う~ん、人間って奥が深いものなのだなぁ。