この作品は映画の方が有名なので、誤解されてる部分があるかもしれない。本書を読んでこの作品のおもしろさを充分承知しているぼくでさえ、いまではこの作品を軽々しく認識している部分がある。それもこれも映画の印象が強いゆえ、メディアに商品化された作品の行き着く末路なのだと割り切っている。これと同じ境遇なのがあの『リング』だろう。
ともあれ、これほどページを繰るのがもどかしいと思う本はそうざらにないと思うのである。本書を読んでいる間、確かにぼくは読書の愉楽を味わった。こういう体験はそうめったに得られるものではない。それゆえに、今更なのだが本書について語っておきたかった。どうか、お許しいただきたい。
ところで、恐竜という題材は、あまりにもありふれたものである。だがそれゆえに手垢にまみれて、ちょっと扱いを間違えれば目もあてられないシロモノになってしまう。また、恐竜というだけで、手にとるのをためらう人も多いことだろう。そんな扱いにくい題材をクライトンは見事に知的エンターテイメントとして書き上げてしまった。本書で扱われるその当時の最先端科学のオンパレードには、ほんとうに舌を巻いたものだった。いってみればクライトンの独壇場で、他の追随を許さない自信と迫力に溢れている。
このへんの呼吸は彼の出世作である「アンドロメダ病原体」から連綿と続いてるクライトン節とでもいうべきもので、科学に明るくない読者でも充分に楽しめ、尚且つ興奮がMAXになってしまう非常に困った作風となっている。
そう、彼の本を読んでいると頭の血管が切れてしまうんじゃないかってくらい興奮するのだ。本書もクライトン節全開で、中盤以降の怒涛の展開はまさしく圧巻。手に汗握って、便所に行くのも忘れるほどの牽引力を備えているといっても過言でないほどだ。
ぼくはこれを刊行当時に読んだので、その興奮も並大抵ではなかったのだが、これが映画を観た後だったらまた感想もかわってきたかもしれない。それでもやっぱりおもしろいんだろうな。この興奮はやはり読書でしか味わえないものだしね。