読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

永瀬隼介「永遠の咎」

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 この人の本を読むのは、本書が初めてである。文庫本で525Pって結構な厚みだ。それに、このくらいの厚みが一番購買意欲をソソる。作者の語りたいことがこんなにあるということは、それだけ思い入れがある上に作者自身も興が乗ったに違いないと思ってしまうのである。

 確かに本書はおもしろかった。これだけの厚みをダレることなく描き切っている。本書で描かれているのは・・・・なんだろう?これはちょっと説明するのが難しい。本書のおもしろさはそこにある。話がどう転がるのかわからないおもしろさとでもいおうか。物語の基盤は池袋にある無認可の保育所「ひよこハウス」だ。ここに子どもを預けて必死に生きている三人の男女。クラブのホステスである神坂綾乃、ヘルス嬢の佐々木聖子、指名客のいない売れないホストの樋口辰男。これら三人が出会い絡みあって、物語が動きだす。神坂綾乃は二歳になる貴浩を預けているのだが、実はこの子を身籠っているときに夫である宗太郎を同僚の轡田秀彦に刺し殺されている。彼女は女手ひとつで息子を慈しみ大事に育てている。一方ヘルス嬢の聖子はオトコに逃げられ、若さゆえわが子を虐待してしまう。ホストの辰男は若手の後輩ホストにどんどん追い抜かれ、いつ首を切られるかもわからない不安定な毎日の中で全身全霊わが子を愛し育てている。そんな三人のあやうい均整の中に、綾乃の夫を殺した轡田が登場する。この轡田という男、暴力の権化みたいな男で大きな身体と巨体に似合わぬ敏捷さで、予想もつかない行動を起こす。本書は、この轡田が登場してからがめまぐるしい。あれよあれよという間にページが過ぎていく。

 だが、ぼくはここで物申す。本書の登場人物たちの言動について、あまりにも違和感がありすぎた。ここでこういう反応はないだろうとか、どうしてこんなに掌返したみたいに変われるんだとか、読んでる間何度もエンスト起こした車みたいに立ち止まってしまった。それでも話自体は、先へ先へという欲求が尽きないおもしろさなので、どんどん読み進んでしまうのである。

 本書を読んで、子を持つ親としてとてもツライ思いをした。自分に置き換えるなんて行為すらおぞましくてできないくらい恐ろしいことが本書では起こる。また、醜い人間同士のエゴ、虚栄、慢心、裏切りなどが、これでもかというくらい描かれる。あくまでも、したたかな水商売の世界に生きる人間たちをメインに描いているといっても、こんな世界は願い下げだと思った。

 それでも一旦読み出すと、止まらないんだけどね。