夢枕獏の二冊目の短編集が本書「遥かなる巨神」である。この頃の獏さんは、デビュー間もないこともあって意欲的にいろんな作品を書いていたみたいで、この短編集に収められている9編の作品もそれぞれ趣向を変えた作品となっている。収録作は以下のとおり。
・「木犀のひと」
・「どむ伝」
・「魔性」
・「わらし」
・「蒼い旅籠で」
・「消えた男」
・「山を生んだ男」
・「千日手」
・「遥かなる巨神」
この中で印象深いのは、やはり表題作にもなっている「遥かなる巨神」である。永遠に歩き続ける完璧な運動体である巨人。全身が真っ白で、ひたと地平に見据えられた目はあるが、口は一文字に結ばれて無表情。八年に一度やってくるこの巨人を人々は神とあがめ、処女の生贄を差しだす。このイメージは強烈でこの本を読んだのはもう二十年以上も前だが、鮮烈に記憶に残っている。詳細は忘れていても、この巨人のイメージだけは永遠に残り続けるだろうとおもわれる。それほどインパクトの強いものだった。
他の作品についてもそうだ。「木犀のひと」なんてそれほどいい作品だとも思わないが、イメージだけは強く残っている。「どむ伝」は読んだとき、なんていやらしくおぞましい作品なんだと思った。腐った水の匂いと、そこに蠢く得体の知れないもののイメージが強烈だ。「魔性」も詩という形式ながら、印象深い。これを読んで『秘密っぽい少女のスカートの奥』が気になって仕方なかった。「わらし」はホント短作品ながら『ホラー版日本昔話』として非常によく出来た作品で、結構好きである。「蒼い旅籠で」は当時のぼくには少々難しかった。わけがわからなくても、なんか凄いとおもった。これはもう少しで傑作になりえた作品である。「消えた男」も夢枕獏にしか書けない作品だと思う。もう少しニューロティックな方面に力をいれていたら、この分野での傑作をものにしてしていたんだろうなぁ。
あとの二編は、それほど印象に残っていない。
とにもかくにも、この短編集の「遥かなる巨神」のイメージはすごい。
たぶん、死ぬまで残るんだろうなぁ。