※ 今回の感想はネタバレはしてませんが、読んだ人しかわからない内容にも触れています。
シリーズ三作目ともなると、もうこちらも古巣に帰ってきたような安心感がある。あの馴染み深いキャラ
たちにまた会えるんだと少し浮き足立った気持ちで本を開くのである。
この『文学少女』シリーズはラノベであるにもかかわらず大人の鑑賞に充分耐えうるビターなシリーズな
のだが今回の話はこの物語全体の要を握るキーポイントが語られるという点でかなり重要な話であった。
いわば、本書でこのシリーズは折り返しを迎える形になる。第一作目から引きずっている心葉君の暗い過
去が大きく動き出す予兆を見せて物語は閉じられる。今回、一旦快方に向かうかと思われた心葉君の古傷
が次に展開する話でさらに大きく抉られることになるのではないかと暗澹たる気持ちになってしまう。お
そらくフタを開けてみれば、こういった危惧は杞憂にすぎないのだろうとわかっていてもそれまでの間は
いったいどうなるんだとヤキモキしてしまうのは、ぼくがそれだけこのシリーズに入れ込んでいるからな
のだ。
今回のモチーフは武者小路実篤の「友情」だった。日本文学には疎いほうなのだが、この作品はなぜだが
読んでいた。かなり思い入れたっぷりで読み終わった記憶がある。ぼくはストレートに野島に感情移入し
て、友情も愛も失ってしまった心が折れるほどの悲しみを噛みしめた口だ。読了して心が重くなった気が
した。はっきりいって衝撃作だったのだ。
このシリーズを読んで毎回感心してしまうのだが、今回も作者はこの文学モチーフをかなり巧みにアレン
ジして無理なく物語に溶けこませている。いってみれば丸写し状態なのだが、それが瑕疵として感じられ
ないところが素晴らしい。前回もそうだったが、今回もミステリとしての興趣はあまりない。でも、それ
さえも気にならないくらい本書は良かったと思う。実篤の「友情」を語りなおして、希望と再生を促す物
語の作りに快哉を叫びたい気分だ。
ビターテイストは相変わらずで、だんだんその苦味が増してきてるような気がするのは、気のせいか?
でも、そのビターな物語と天然キャラの遠子先輩のキャラのギャップがこの物語の旨味でもあるのだ。
もう一ついっておきたいのが、琴吹さんと心葉君とのやきもきしてしまう関係。もう、はやく決着つけて
あげてと思わず突っ込んでしまいたくなるじれったさだ。今回かなり進展したかのように見えるが、実の
ところ心葉君の状態は以前とまったく変わっていないのだから、おんなじことである。ああ、琴吹さんが
かわいそう。
というわけで、次の巻が非常に待ち遠しい。はやく読みたいなぁ。