とりあえず収録作を挙げておこう。
◆「滝に誘う女」
◆「隣家の消息」
◆「美少年の死」
◆「グリーン車の子供」
◆「日本のミミ」
◆「妹の縁談」
◆「お初さんの逮夜」
◆「梅の小枝」
◆「子役の病気」
◆「二枚目の虫歯」
◆「神かくし」
以上11編である。今回はじめてこのシリーズを読んだのだが、ぼくはこれ大いに気に入った。各作品が短く小気味よくまとめてあるのも好感もてるし、なによりこのシリーズはあのシャーロック・ホームズの様式をそのまま踏襲しているのだ。謎があり、読者にはわけのわからない手掛かりを得て、雅楽一人がすべてを把握し、最後に謎解きがされる。雅楽と記者竹野のキャラのスタンスもそっくりそのままだ。
これがまず第一に気に入った。竹野が雅楽に寄せる信頼と期待がストレートに読者に伝わってくる余裕のある書きっぷりも良かった。ただし、肝心のミステリの部分についてはそれほどサプライズはない。
『作られた謎』としての作為が見え見えなので、そこに驚きはないのだ。いってみれば筋道をつけられたミステリとでもいおうか。構築された謎と解明のプロセスがあまりにもうまく型にはまりすぎているのでいささか御都合主義的な肩透かしを感じてしまうのである。だが、そうであるにも関わらず本シリーズは充分魅力的だ。ミステリとしての興趣以上に物語としての切れ味が抜群なのだ。すべてがそうだとは言えないのだが、ここに収められている短編のラスト一行にはまったく唸ってしまった。この最後の言葉のもたらす余韻が素晴らしい。これを味わう喜びがこのシリーズにはあるのだ。
読み始めるまでは馴染みの薄い歌舞伎の世界や時代的な格差が気になって、少々手が出し辛かったのだがこれはすべての作品を読まないと気が済まなくなってきた。もう古本には頼れないかもしれないし、創元の全集を買うことになりそうな気配である。