二月頭から読み始めて、いまようやく読了した。50年以上の時が流れる本書にはこういう読み方が最適
だと判断してのことだ。数ある良書の中にはそうやってゆっくり読書を進めるのに適した本というものが
ある。これは持論だ。悪くいえばただの思い込みともいえる。しかし長い時間をかけてその本と向き合っ
ていると、そこで描かれる世界が実際にあった出来事のように自身の中に沈殿していくように思うのだ。
だから、いつまでもその本の世界を忘れることがない。逆に筋のおもしろさに煽られるように一気に読み
終えた本に限って内容をすぐに忘れてしまう。本来、本はそういう接し方でも充分なのだと思うのだが、
中には大切に残しておきたい物語というものがあるのだ。
本書はそういう物語だ。三代にわたる女系家族の歴史をマジックリアリズムの手法を用いて描いた本書は
いつまでも心に残しておきたい物語なのだ。
あきらかに本書のスタイルはあのイザベル・アジェンデ「精霊たちの家」を意識している。三代にわたる
女たちの生き様を描いているのも、マジックリアリズムの手法もそのままだ。「精霊たちの家」といえば
ぼくの中ではいままで読んできた本の中でもベスト3には入る傑作である。もうこれだけでうれしくなっ
てしまった。あの物語を踏襲した物語がおもしろくないわけないではないか。
しかし、本書を読み終わってぼくは語るべき言葉を見つけられないでいる。本来こうやって記事にした以
上なんらかの感想を書くべきなのだろうが、それがまったく書けないでいる。
本書の筋を書くのは本意ではない。それはこれから読む人に対して真っ白な状態で接して欲しいからだ。
できれば本書を読んで感じたことを書きたいのだが、何をどう書けばよいのかまったく思いつかない。
もしかすると、あまりにも語るべきことが多すぎて頭の中がフリーズしてしまったのかもしれない。
本書はそういう本だ。語るべき言葉を見失うほどに圧倒的で濃密な物語なのだ。
これから本書を読む人は、予備知識を得ずとりあえず読んでみて欲しい。そして、その世界にどっぷりと
浸かって欲しい。それが本書と向き合う一番最適な姿勢なのだ。