この人の書くものは安心して読めるから好きだ。レズニックはSF作家ではあるが、その前にたいした小説家なのである。前に紹介した「アイヴォリー」などはそんな彼の、どちらかといえば重厚な面が強調された読み応え充分なSF大作だったが、本書はうってかわってとても軽めのミステリ色濃厚なノンストップサスペンスなのである。要するにレズニックは、なんでも器用に書きこなしてしまう小説の達人だといえる。でも、それが災いしてか日本ではいまひとつメジャーになれてない気もするのだが^^。
本書はまことにスピーディな展開がクイクイ読ませる快作で、その内容からミステリ読者にも充分楽しんでもらえる作品なのではないかと思う。では、本書の導入部をさらっと紹介してみよう。
宇宙軍の艦長が航行中に二名の部下を射殺してしまう。だが艦長の主張によれば、射殺したのは宇宙人であり、自分は殺人罪には問われないというものだった。艦長の弁護を命じられたベッカー中佐は事件の真相を探るうち誰かに命を狙われてしまうのだが・・・。
いってみれば、本書は『逃亡』の物語だ。しかも、こういった分野では第一人者であるヒッチコックばりのめまぐるしい急転直下の逃亡サスペンスに仕上がっている。
少々御都合主義のきらいはあるが女性のハッカーのめざましい活躍もあり、何度も危機にさらされる主人公ベッカーと共に読者はハラハラドキドキの連続である^^。
もともとミステリ党であるぼくにはSFでありながら本書のようなミステリ色の濃い作品が相性いいらしく、軽めであるにも関わらず本書の出来栄えが大変気にいった。
とにかく、あれよあれよという間に物語の渦中に引きずりこまれ、何がなんだかわからないうちに一気に走りぬけ気がつけばラストに到達し、ぜいぜい息をついていたって感じの読書体験だった。
てなわけで、純粋な興奮を存分に味わって大満足だった本書は、SFが苦手なミステリ好きにこそ読んでいただきたい作品だといえる。軽めだし、気張らず読めるという点でもたいへんオススメだと思う次第なのである^^。