につきまとっている。だから新人のデビュー作に手を出すのは、いわば一種の博打のようなものなのだ。
本書は光文社文庫の最新刊として書店に並んでいた。表紙を見て素通りしかけたのだが、ちょっと待てよ
と引き返して手に取ってみた。
爆笑青春冒険小説?愛と涙と笑いがいっぱい!スラプスティック青春小説?ふ~ん。
主人公は県人会のオンボロ学生寮に住む大学生。管理人が怪我で緊急入院したために、寮長として数々の
無理難題に直面することになる。かてて加えて、大甘だった国際法の担当教授も急病のため入院すること
になり、かわりについたのが大学の中でも特に厳しいと恐れられている教授だったからたまったもんじゃ
ない。いままで出席するだけで単位がとれると高をくくってまったく勉強していなかった国際法について
レポートを提出しなければ留年必須という窮地に立たされてしまうのである。期限は一週間。
本書はこの目が回るほど忙しい一週間の出来事を描いている。
主人公柳瀬幸也の試練は一日目から始まる。いきなり音信普通となってしまった友人の恋人の行方や、バ
イト先のそば屋の唯一の常連客だった近くの会社の客足がぱったり途絶えてしまった問題、寮内では御法
度の麻雀の音がうるさいとのクレーム、そして最後のとどめはトイレの詰まり。レポートに取りかかる時
間もなく一日目はバタバタと過ぎてゆく。
そして二日目はさらに多くの問題が持ち上がってゆくのである。
こうして、怒涛のごとく過ぎゆく一週間。さて、最後に待ち受けているのは天国か、地獄か。
いやあ、おもしろかった。様々な問題を絡ませあい物語を盛り上げていく手腕は新人とは思えない巧みさ
だった。主人公の幸也が困った人を見ると放っておけない性格だから、一つの問題が解決する間もなく新
たな問題を抱え込んでしまうのである。日を追うごとに新たな問題が増えてゆき、いったい作者はどうや
って収拾つけるんだと心配になるほどだったが、それは杞憂だった。数ある問題の中にはミステリ的な要
素を含んだものもあり、幸也が探偵役としておおいに活躍するのもおもしろかった。
本書を読んで思ったのだが、この作者ミステリを書いても結構いい作品書ける人なのではないだろうか?
とにもかくにも本書はデビュー作とは思えないほど満足のいく仕上がりだった。願わくば、本書のラスト
で予告されている続編がはやく刊行されんことを。