読書の愉楽

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トルーマン・カポーティ「誕生日の子どもたち」

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 カポーティといえば忘れられない映画がある。ぼくの大好きな映画なのだが、そこで素晴らしいハイテンションでもって怪演していた彼の姿が忘れられないのだ。

 その映画とは1976年に公開された「名探偵登場」である。これがなかなか楽しい映画で、ミステリ好きなら楽しめること間違いなしの傑作なのだ。脚本はニール・サイモン、キャストもカポーティの他にピーター・フォークピーター・セラーズアレック・ギネスなどなど非常に豪華な顔ぶれだった。

 カポーティの役どころは、ミステリマニアの大富豪Mr. トウェイン。世界中から超有名な5人の名探偵を屋敷に招き、自分の仕掛けた殺人トリックの真相を推理させるというゲームを始める。

 嬉々とした表情のカポーティは、並みいるベテラン俳優を圧倒しそうなほどの勢いで大富豪役を演じており、映画の筋はすっかり忘れてしまっているがこの小さいおっさんのことはいまだに強く印象に残っているくらいなのだ。

 そんなカポーティの書いた本を初めて読んだ。いい作品ばかりだった。「無頭の鷹」一編を除いて他の作品はすべて郷愁をさそう、子供の無垢な気持ちをそのまま結晶させたような作品ばかりだった。

 それらの作品たちはカポーティ自身の少年時代とラップする形で描かれている。けっして幸福ではなかった彼が精一杯生きた幼い日々が無垢と残酷さの合わせ鏡で描かれているのである。愛すべき作品たちだ。

 こういう視点は大人にはないものだ。それをいとも簡単に描いてみせるカポーティは、やはり普通ではない感性をもっているといえるだろう。

 彼はイノセントな子どもの心を忘れることなく育ったのだ。それはゆがんだ成長だ。しかし、それによってこの宝石のような作品たちが生まれたのである。

 クリスマスや感謝祭という特別な日を設定して、彼は見事にイノセント・ワールドを構築した。

 けっして充たされてはいなかった、懐かしき良き時代。カポーティ自身の背景を知ることによって、この作品たちはより一層重みを増して胸に迫ってくる。傑作だ。