河出の奇想コレクションは、こういった選集の嚆矢ともいえる早川の『異色作家短編集』と双璧を成す選集に育ちつつある。このシリーズが出た当初はこれだけ素晴らしい選集になるとは思ってもみなかった。
本書はそんな傑作選集の第三弾として刊行された。正直なとこテリー・ビッスンという作家のことはあまりよく知らなかった。よくよく調べてみれば、あの「世界の果てまで何マイル」の作家だということで、ああ、あの影山徹画伯の表紙の文庫本ねえ、そういえばそんな本出てたなぁ、くらいの認知度だった。
だから予備知識なしで読み出したのだが、これがおもしろかった。まったく好感触だった。
特に気に入ったのが、ラスト三編の『万能中国人ウィルスン・ウー』シリーズだ。これは、話の展開の未知数も手伝ってか、とてもおもしろかった。バカバカしいユーモアもよかった。
表題作にもなってる「ふたりジャネット」は、本好きには馴染みの作家たちが多数登場、それだけでも楽しいが結局何がどうなったのかよくまとまっていないところがミソ。適度の翻弄と潔さが心地いい作品。
とてもウケたのがショートショートの「アンを押してください」。これぞシットコムのおもしろさというものだ。とぼけた雰囲気が最高。気の利いた小品だった。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞と各賞を総ナメにした「熊が火を発見する」は、ペーソス溢れた佳品。火のはぜるパチパチしか聞こえない静かな作品で、静謐なのにイメージの強烈さが後を引く稀有な作品。この感覚は読んでみなければわかりません。
これと同列なのが「英国航行中」。こちらも静けさと侘しさに満ちて奇想世界を彩っている。
転じて「未来からきたふたり組」は、とても楽しいコメディ。名づけるならロマンティックタイムパラドックス物とでもいおうか。なんだ、そのまんまじゃん^^。
「冥界飛行士」は、この短編集のなかで唯一ダークな作品。臨死体験を絵にするなんて。すごく生々しくて不気味だった。でも、そこに美と哀愁が漂うところがこの作家の面目躍如といったところか。
というわけでひととおり紹介したが、この短編集は奇想コレクションの中ではレベル高いほうだと思う。
そりゃあ、スタージョンやウィリスには負けるかもしれないけど、これはこれでいい作品集だった。少なくともぼくは本書を読んで、なんとなく敬遠していた「世界の果てまで何マイル」を読んでみようとまで思った。なかなか楽しめる短編集だ。オススメである。