読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

赤城毅「書物狩人」

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 古本好きにはたまらない内容なのかと思いきや当初の思惑からは逸れてしまったが、なかなか興味深い内容だった。『書物狩人』とは世間に出れば大事になりかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法問わず、あらゆる手段を用いて入手する本の世界の究極的存在なのだそうである。だから、只の本好き、本の虫などではなく、時には命を危険に晒すこともあったりするのだ。

 というわけで、ここに描かれる本の話は例えばジョン・ダニング「死の蔵書」で披露される古本の書誌学的な内容とは少し違ってくる。ここには、スティーヴン・キング呪われた町」の初版本がいくらになるかなんて話は出てこない。本書の中に登場する稀覯本をめぐるミステリーで暴かれるのは、いわゆる歴史の暗部というやつだ。誰もが知っている歴史の常識が快く、豪快に覆されてしまう。

 こういうの大好き。高橋克彦総門谷」や「竜の柩」もそうだったが、 こういった歴史の新解釈というのが、ぼくは殊更好きなのである。そこには伝奇的な匂いも感じられる。だから、内容的には本書はあの「インディ・ジョーンズの冒険」と同系色なのである。

 ここに紹介される四つの物語には、それぞれ一冊の本が登場する。一応ミステリなので詳細は書かないでおくが、みなとても興味深い。作者のあとがきによれば『物語を構成する要素はほとんどが事実』だということで、う~ん、まだまだこんなに知らない事があったのかと驚くばかりだった。

 と、ここまでは本書を読んで感心した部分。

 以下は不満といってはなんだが、本書の弱い部分について少し。

 まず気になるのが、本書の主人公である『書物狩人(ル・シャスール)』だ。要するにキャラがたってない。設定が凡庸で、ある意味曖昧だ。特徴はあるのだが、それが活かされていない。類型を脱してないというか、印象に残る部分があまりにも少ない。そういった部分の魅力は皆無といっていい。これは他の登場人物についてもいえる。

 もう一点、気になるのが物語としての構成だ。先にも書いたとおり、ここに語られる歴史の暗部は驚くべきエピソード満載なのだが、いわばその部分が物語のクライマックスとなる。だが、そこへ至る道程に物語としてのおもしろさがない。サスペンスがないというわけではないが、こちらもあまりにも凡庸な印象だった。凡庸なキャラと凡庸な物語。だから『歴史の暗部』の部分を除いてしまえば、この話にはまったく魅力を感じない。タイトルから連想されるようなビブリオマニアとしてのおもしろみもないというわけなのだ。

 それでも続編が出れば、ぼくはまた読むと思う。今度はいったいどんな『歴史の暗部』が登場するのかとても気になるからだ。だからぼくはその興味を満足させるためだけのために、また読んでしまうと思う。

 たとえこのシリーズに物語としての魅力が欠けていたとしてもね。