読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-01-01から1年間の記事一覧

三羽省吾「太陽がイッパイいっぱい」

大学生のイズミは、付き合っていた彼女の「海外旅行に行きたい!」という一言を機に、日雇いのバイ トをするようになる。そこで「マルショウ解体」の親方に引き抜かれ、いまは大学にも行かず毎日過酷 な労働に汗を流している。きっかけを作った彼女とも別れ…

山田風太郎、忍法帖ベスト10!

大好きな山田風太郎のことをもっと語りたいので、独断と偏見でぼくの忍法帖ベスト10を選出してみました。長くなりそうなんで、二回に分けたいと思います。今回は、10位から6位を発表!では、早速いってみましょうか。■第十位■ 「忍法八犬伝」言わずとし…

島田荘司「ハリウッド・サーティフィケイト」

ブログの仲間内(特に女性陣)では、かなり評判のよろしくないレオナが主人公のハードボイルド・ミステリーである。 おもしろかった。変な魅力があった。レオナが登場するのは「アトポス」以来ではないだろうか。 そして相変わらずの破天荒ぶりである。実際…

宇月原清明「聚楽 太閤の錬金窟」

本書は「信長 ― あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」で、第十一回日本ファンタジー大賞を受賞した著 者の受賞第一作である。 デビュー作を飛び越えて本作を先に読んだのだが、いやあ驚いた。大傑作ではないか。 本書で描かれるのは、信長、秀吉、家康の三人…

J・スキップ&スペクター編「死霊たちの宴」

かの米国で生きる屍といえば、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の ことである。 上巻では、そのロメロにリスペクトした感のある作品が揃っていた。そのほとんどが、映画そのままに 生きる者と生きる屍との死闘を描いているの…

日向まさみち「本格推理委員会」

「鴨川ホルモー」に出会って『ボイルドエッグズ新人賞』なんてものがあることを知った。本書はその 新人賞の第一回受賞作である。 読み始めではアニメ調のセリフ回し、アニメ調のキャラ設定などが鼻について、あまり好みじゃないな と思った。事件自体も校舎…

「時代もの、大好き」企画に参加いたします。

月のホネ/ブックリポートの月野さんからお誘いを 受けまして、この度「時代もの、大好き」という企画に参加することになりました。 時代ものといえば、いまの本好きとしてのぼくがあるのも中三の時、あの山田風太郎大先生の「伊賀忍法 帖」をスケベ心出して…

キリル・ボンフィリオリ「深き森は悪魔のにおい」

十五年探し続けて読んだ本である。といえば大層に聞こえるが、要はネットをするようになったら案外簡単に見つかったというわけだ。 この本の存在は、当時指南書として大変重宝した角川文庫の「活字中毒養成ギプス ジャンル別文庫本ベスト500」という本で知っ…

池永陽「コンビニ・ララバイ」

市井の人々の日常が描かれているだけなのに、これがめっぽうおもしろい。そこには、人と人との触れ 合いがあり、ささやかだが心に残るドラマがある。 タイトルからもわかるとおり舞台になるのは本通りから外れた住宅街にあるコンビニエンス・ストア。 様々な…

ディック、クーンツ他/中村融編「影が行く」

本書はSFホラー短編を日本独自で編纂したアンソロジー。なかなかの傑作揃いである。 収録作は以下の通り。 ◆ 消えた少女(リチャード・マシスン) ◇ 悪夢団(ディーン・R.クーンツ) ◆ 群体(シオドア・L.トーマス) ◇ 歴戦の勇士(フリッツ・ライバー…

佐藤友哉「子供たち怒る怒る怒る」

久しぶりに読んだ佐藤友哉だったが、これが案外よかった。相変わらず描かれる事柄は尋常じゃない。 これは舞城君にも通じるテイストなのだが、佐藤君もアンモラルさにかけては甲乙つけがたい。 酸鼻で醜悪な場面が横溢し、おびただしい血が流れる。もしくは…

アントニイ・バークリー「レイトン・コートの謎」

ロジャー・シェリンガムという特異な探偵は、本書と「第二の銃声」の二冊でお知り合いになったのだが、もうそれだけでこの探偵の魅力にどっぷりハマってしまった。彼は風貌こそ違えども、そのスタンスはキートンかチャップリンかと思うほどの喜劇役者である…

筒井康隆・編「異形の白昼」

恐怖小説というのが好きなのである。目がないと言ってもいい。恐怖、ホラー、怪談、呼び方はどうで あれぼくはこの手の話が大好きだ。 だから、よくアンソロジーを読む。角川ホラー文庫のアンソロジーもよく読んだが、あまりいい作品に はめぐりあえなかった…

ウィルキー・コリンズ「月長石」

物語の構造としては、事件が終息して後日に各関係者が、当事者視点でそれぞれの体験を証言するという体裁をとっている。それは、月長石盗難の舞台となったヴェリンダー家に仕える老齢の執事であったり、親戚の狂信的なキリスト教信者の女性であったり、顧問…

東野圭吾「幻夜」

本書は、あの大傑作「白夜行」の続編である。ここでちょっと「白夜行」について語ってみたいのだが、あれを読んだ時は正直ブッ飛んだ。ぼくの年代がまさしくあの作品で描かれた時代と同年代だったので、描かれる時代の趨勢がぼくの経験とぴったりシンクロし…

クリス・クラッチャー「ホエール・トーク」

ラストで不覚にも泣いてしまった。思わず胸が熱くなって涙がこぼれてしまった。 本書はYAながら、YAの枠にとらわれない強い小説本来の力をもっている。う~ん、クラッチャーさん巧みだ。アメリカが直面している現実の厳しさが正面きって描かれ、答えの出…

菊地秀行「幽剣抄」

菊地秀行の新刊はもはや読書の対象外になって久しい。前にも書いたが、昔は彼の作品を好んで読んでいた時期もあった。「吸血鬼ハンターD」や「エイリアンシリーズ」は大好きだったし、あまた量産されたバイオレンス小説も読んできた。でも、いまでは菊地秀…

最後の願い

あの頭上に輝いている 赤い星は 火星だろうか ぼくは犬と一緒に 暗い夜道を散歩している 突然に ぼくは死を予感する 犬は無邪気に尾をふっている 今年の初雪は、たぶん十二月二十三日に降るだろうが おまえもぼくも それを見ることはないだろう 眼下を流れる…

ロバート・ニュートン・ぺック「豚の死なない日」

衝撃的な本である。 ひと昔前のアメリカ、ヴァ-モントの田舎。そこで慎ましく暮らすシェーカー教徒の農夫家族。 彼らの禁欲的な生活が淡々と描かれる。作者自身であるロバート少年の目を通して。電気や電話もなく移動手段といえば馬車、日々の食物は畑や家…

上遠野浩平「しずるさんと偏屈な死者たち」

上遠野浩平といえば、「ブギ-ポップは笑わない」を以前に読んだ。でも、あまりピンとこなかったの でそれまでとなっていたのだが、今回ライトノベル漁りをしている最中に本書を見つけてもう一度トラ イしてみようと思い立った。この人が「殺竜事件」などの…

ジョン・グローガン「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」

普段はこういう本は読まないのだが、読みはじめるとついつい引きこまれてしまう。 本書は早川書房が10月6日に刊行する本のモニターアンケートに応募して、送ってもらった発売前の 簡易製本なのである。だから読んでアンケートを返送しなければならない。…

北上次郎「エンターテインメント作家ファイル108国内編」

北上次郎の書評が好きである。なんといえばいいか、彼の書評は気持ちを鼓舞するのだ。 たとえばそれがまったく知らない作家のものだったとしても北上書評にかかってしまえば、はやく読ま なきゃいけないと焦燥感にかられてしまうこと請け合いなのだ。 だから…

アンリ・トロワイヤ「サトラップの息子」

トロワイヤといえば歴史物というイメージしかなったが、こんなに素晴らしい小説も書いていたのだ。本書以前に読んだトロワイヤの本といえば「イヴァン雷帝」だけだったので、ほんとに本書の完成度には目を瞠った。本好きには、ググッとくる内容で、本書の主…

倉知淳「壺中の天国」

家庭諧謔探偵小説。なんじゃそりゃ?ピンとこないなぁ。ユーモア家族小説のミステリ版ってことか? それにしては、ずいぶんもってまわしたネーミングだ。そこには作者のたくらみが隠されているはず。 ううーん、いったいどういう話なんだろう? それに加えて…

ギルバート ・アデア「ドリーマーズ」

まず、驚いたのが『五月革命』である。恥ずかしながら、1968年にフランスでこんなに混乱を極めた革命があったなんてまったく知らなかった。学校で習ったっけ?とにかくその事実を知っただけでもめっけもん。で、内容的には退廃とエロスに彩られた幕間劇…

日日日「ちーちゃんは、悠久の向こう」

なかなかに悲惨な話だった。直接的な描写がないだけで、語られていることは残酷なことこの上ない。 あまり先入観をもってなかったので、結構インパクトあった。怪談好きの女の子というのは目新しくな いが、そこから波及していく物語の展開がおもしろかった…

メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」

死体となって後、人類のために貢献している人たちがいる。 解剖用の献体や臓器移植などはあたりまえに知っていたが、世の中にこれだけ死体を使った仕事がある のかと驚いた。 のっけから死体、死体と少々グロいと思われたかもしれないが、本書から受ける印象…

今野敏「蓬莱」

今野敏はいまひとつの作家ではないか?作品数は多いがこれといった代表作もなく、ブレークしたこともない。かくいうぼくも彼の作品は本作しか読んだことがない。今野敏はこの作品でブレークするはずだったのだ。しかし、そこまでにはいたらなかった。この作…

赤い月の夜に

大きな月が不気味な赤い色をしている 丘にのぼって月を両手でつかもうとしたら あたり一面に星が降ってきた 光り輝く星たちは てんでばらばらに飛び散って 跳ねて、飛んで、消えてしまった 遠くから聞こえる車のクラクションに ぼくの思考がさえぎられる 君…

スティーヴン キング&ピーター ストラウブ 「タリスマン」

二人の巨匠による初の共著として刊行された本書は、実のところそれぞれのファンには不評だったようである。最後まで読みとおすことができなかったとか、おもしろくないとか散々いわれているようだがそんな本書、ぼくは結構好きだったりする。 実際、本書は長…