恐怖小説というのが好きなのである。目がないと言ってもいい。恐怖、ホラー、怪談、呼び方はどうで
あれぼくはこの手の話が大好きだ。
だから、よくアンソロジーを読む。角川ホラー文庫のアンソロジーもよく読んだが、あまりいい作品に
はめぐりあえなかった。本書は1969年に刊行された本を文庫化したものである。あの筒井康隆が3
5歳の時に編纂したものだ。このアンソロジーは結構印象に残っている。収録作は以下の通り。
◆ 「さまよう犬」 星 新一
◇ 「蜘蛛」 遠藤周作
◆ 「くだんのはは」 小松左京
◇ 「甘美な牢獄」 宇能鴻一郎
◆ 「孤独なカラス」 結城昌治
◇ 「仕事ください」 眉村 卓
◆ 「母子像」 筒井康隆
◇ 「頭の中の昏い唄」生島次郎
◆ 「長い暗い冬」 曾野綾子
◇ 「老人の予言」 笹沢左保
◆ 「闇の儀式」 都筑道夫
◇ 「追跡者」 吉行淳之介
◆ 「緋の堕胎」 戸川昌子
以上13編。うち星新一と吉行淳之介の作品はショート・ショートである。この中で特に印象深いのが
「長く暗い冬」だ。この作品はほんと有名なのだが、ぼくはこのアンソロジーではじめて知った。とて
も衝撃的だった。子どもをあつかった恐怖小説は数多いが、狂気をこれだけ効果的に演出した作品をぼ
くは他に知らない。「くだんのはは」もこのジャンルでは定番ともいうべき作品。半村良の「箪笥」と
並んで多くのアンソロジーに収録されている傑作。この作品のイメージも強烈だ。そしてとてもおぞま
しい。「頭の中の昏い唄」も、独特の世界に狂気を描いて秀逸。出だしの一行目からその世界にがっち
り引きこまれてしまう。生島次郎は他にも「香肉」などの忘れがたい作品があり、本業のハードボイル
ド以外にも数々の『奇妙な味』作品を残している。「老人の予言」も『奇妙な味』で尚且つゾクリとす
る作品。メインのアイディアが秀逸。ラストまで読んできて、あれ?と思ってしまうが、よくよく考え
てみるとその仕掛けに驚く。「緋の堕胎」は生理的な部分にうったえかけてくるような嫌な恐怖を味わ
える。
とまあ、駆け足で印象に残った作品を紹介してきたが他の作品もそれぞれいい味出している。
アンソロジーといえば当たり外れが多いのだが、本書は外れしらずの傑作・佳作揃い。未読の方は是非
読んでみてください。