読書の愉楽

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J・スキップ&スペクター編「死霊たちの宴」

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かの米国で生きる屍といえば、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の

ことである。

上巻では、そのロメロにリスペクトした感のある作品が揃っていた。そのほとんどが、映画そのままに

生きる者と生きる屍との死闘を描いているのである。収録作は以下の通り。

・ 「花盛り」 チャン・マコンネル

・ 「森のレストラン」 リチャード・レイモン

・ 「唄え、されば救われん」 ラムジー・キャンベル

・ 「ホーム・デリヴァリー」 スティーヴン・キング

・ 「始末屋」 フィリップ・ナットマン

・ 「地獄のレストランにて、悲しき最後の逢瀬」 エドワード・ブライアント

・ 「胴体と頭」 スティーヴ・ラスニック・テム

・ 「選択」 グレン・ヴェイジー

・ 「おいしいところ」 レス・ダニエルズ

中でもおもしろかったのがブライアント「地獄のレストランにて~」だ。なかなか映像的な作品で、こ

れが日本なら、こうまで大々的な展開にはならないだろうなと思った。いかにもハリウッド的なテイス

トの逸品だ。

この上巻を読んでると、あながちこういう状況もありえない話ではないなと思ってしまう。もし、核戦

争が勃発したら、滅亡後の地球はこういう世界になるんじゃないかと思えてくるのである。ありえない

けど^^。御大キングの作品はどうという事なかった。やはり生きる屍についてはアメリカ産より日本

産のほうが万感胸に迫るものがある。あの「屍鬼」などは、この手の作品の最高峰だと思うのだが如何

なものだろうか。

打って変わって、下巻は上巻のステレオタイプと趣を異にして、なかなかバラエティーに富んだ内容だ

った。収録作は以下の通り。

・ 「レス・ザン・ゾンビ」 ダグラス・E・ウィンター

・ 「パヴロフの犬のように」 スティーヴン・R・ボイエット

・ 「がっちり食べまショー」 ブライアン・ホッジ

・ 「キャデラック砂漠の奥地にて、死者たちと戯るの記」 ジョー・R・ランズデール

・ 「サクソフォン」 ニコラス・ロイル

・ 「聖ジェリー教団VSウォームボーイ」 デイヴィッド・J・ショウ

・ 「わたしを食べて」 ロバート・R・マキャモン

なかでも注目はランズデール「キャデラック~」とマキャモン「わたしを食べて」である。

ランズデールは手堅い作家だ。まだ短編しか読んだことがないのだが、ランズデールの名を見るだけで

安心感と期待を覚えるようになってしまった。この作品も奇妙なヴィジョンに彩られた物語性豊かな世

界を構築して、期待に充分応えてくれた。マキャモンはもう貫禄充分で、一味違うゾンビを描いてくれ

た。ゾンビというイメージにつきまとう腐臭と汚辱が一掃されるメロドラマである。

その他の作品では、ナスティーさという点で他の追随をゆるさないショウの「聖ジェリー~」が印象に

残った。この作品では漂う腐臭が行間から立ち上ってくるような凄まじさを味わった。

中篇のボイエット「パブロフの犬のように」も最初とっつきにくかったが、中盤以降はまるで映画を観

ているかのような鮮烈なイメージの作品だった。

というわけで長々と書いてきたが、上下巻通して感心したのは、それぞれの作家が独自のゾンビシステ

ムを確立しており、絵空事にリアルな色がつけられているところだった。ここらへん、読んでて高ぶっ

てくるものがあった。世界を構築してしまう着想の豊かさに舌を巻くと同時に、ジェラシーを感じてし

まうのだ。う~ん、なかなかおもしろかったですぞ。