上遠野浩平といえば、「ブギ-ポップは笑わない」を以前に読んだ。でも、あまりピンとこなかったの
でそれまでとなっていたのだが、今回ライトノベル漁りをしている最中に本書を見つけてもう一度トラ
イしてみようと思い立った。この人が「殺竜事件」などのファンタジー世界でのミステリを確立してい
るのは横目で見ていたのだが、どうも食指が動かなかった。ファンタジーとの融合というのが、どうも
好きになれなかった。まさに食わず嫌いである。なのに、どうして今回は読む気になったのかといえば
それは本書が安楽椅子探偵物だったからである。
主な登場人物は二人の少女。タイトルにも出てくる探偵役のしずるさんと毎回彼女を見舞いにくるよー
ちゃんの二人である。体裁としては奇妙な事件が起こり、ちーちゃんが見舞いがてらその事件の資料を
持ち込み、しずるさんがそれを元に事件を解明するという形になっている。
事件の内容といえば、これまた不可能犯罪ともいうべき奇妙な質のものばかり。
第一話は、凄惨な死体発見で幕を開ける。山中で発見された若い女性の死体は右脚が腰から消失してお
り、両腕は肩から切断され、その手が自身の頭を肉に指が突き刺さるほど握りしめていたというのだ。
シルエット的にはなんとも不吉な矢印のようなこの奇妙な死体はいったいどういうわけでこんな無残な
有様になってしまったのか?
つかみはOK。素晴らしい。猟奇的すぎるが、インパクトも含めて満点ではないだろうか。
第二話では、心臓を丸く刳り貫かれた死体が登場。その死体の発見された部屋は高層マンションの最上
階なのだが、その部屋にいた女性が100メートル離れた場所で墜落死体となって発見されるというオ
マケもついている。島田っぽくなってきたぞ。
第三話は密室状態の部屋で男の死体が発見される。喉の傷からの出血が死因なのだが、その奇妙な傷に
はその部屋で飼われていたコーギー犬の唾液が付着しており、部屋にいたはずの犬は跡形もなく消え去
っていたという。う~ん、素晴らしすぎる謎だ。
第四話は、テレビ中継されていた世紀の消失マジックの最中、高層ビルのエントラス・ホールに宙吊り
にされた鉄の箱からおびただしい血が流れ落ち、マジシャン自身が本当に消失してしまったという。
これら四つの事件を病室で寝たきりのしずるちゃんが快刀乱麻を断つがごとく解決してしまう。
だがしかし、う~ん、これはダメでしょう。謎が魅力的であるだけにこの解決は納得できない。
いやいや論理的に無理があるとかいうのではなくて、真相がとってもショボいのだ。
安楽椅子探偵の醍醐味となる推理の展開についても、簡単すぎて手応えがない。これをミステリとして
受け入れてしまったら、佐藤君の作品も清涼院君の作品も立派なミステリとして殿堂入りさせなくては
ならないだろう。
体裁としては、色々仕掛けもしてあり今後の展開で明かされる二人の謎もあるようなのだが、もういい
や。これは今回限りということで見送らせていただきます。