読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

佐藤友哉「子供たち怒る怒る怒る」

イメージ 1

 久しぶりに読んだ佐藤友哉だったが、これが案外よかった。相変わらず描かれる事柄は尋常じゃない。

 これは舞城君にも通じるテイストなのだが、佐藤君もアンモラルさにかけては甲乙つけがたい。

 酸鼻で醜悪な場面が横溢し、おびただしい血が流れる。もしくは常軌を逸した世界が淡々と描かれ、無感動に締めくくられる。救いのない状況において、登場する子どもたちは必死にあがく。そういった点では「慾望」と「死体と、」という作品が他の作品とは感触が異なる。

 「慾望」では数人の高校生たちが銃を乱射し、学校で無差別殺人を繰りひろげる。そこに明確な動機や思想はない。ただ単に殺していくのである。彼らの無軌道な行いに正常な対処ができない担任教諭は、そこに理由を見出そうとする。高校生たちの無味乾燥な振る舞いやあっけらかんと級友を殺すさまは、いまの世の中では現実にあってもおかしくないリアルな匂いがプンプンしてくる。好きな作品ではないが、印象に残った。

 「死体と、」は少女の死体をめぐって連鎖的に物語が進んでいく。この試みはおもしろい。死体愛の暗い情念もからませながら、ドミノのように変化しながら進んでいく物語展開が新鮮だった。

 その他の作品では、ほとんどの作品において登場する子どもたちがみな必死に現状を打破しようとあがく。特に印象深いのは、やはり表題作だろうか。ここでは連続殺人と、それをゲームにして遊ぶ子どもたちが描かれる。子どもが健全に生きる権利を剥奪された世界。親も子を選べないが、子も親を選ぶことはできない。生まれてきた境遇は、それがどんなものであれ受け入れるしかないのだ。ここで描かれる差別と虐待の悲惨な環境は、現実に起こっていることでもある。話としては破綻しているかもしれないが強いメッセージ性を感じた。世の中はどうしてこんなにも子どもたちに対して攻撃的なのだろう。

 子を守るべき親でさえ、わが子を食い物にしている始末だ。子どもが子どもらしく朗らかに育っていける世の中は、もうやってこないのだろうか。ちょっと話はかわるが、本作のラストの神戸の街を更地にする云々というくだりは阪神大震災のことをいってるのだろうか?

 「大洪水の小さな家」、「生まれてきてくれてありがとう!」、「リカちゃん人形」も同様に子どもが普通に生きていけない世界が描かれる。「大洪水の~」のみニュアンス的に少し違うのだが、総じて何かに立向っていかなければならない子どもが描かれる。そういった意味では、なかなか前向きな作品群なのだ。

 というわけで、軽く読めてしまうにも関わらず本書はなかなか印象深い本だった。鏡家サーガもまた別の意味で印象深いのだが、本書におさめられたような作品をもっと読んでみたいと思った。そこにある明確なメッセージを、もっと感じたいと思ったのである。