本書はSFホラー短編を日本独自で編纂したアンソロジー。なかなかの傑作揃いである。
収録作は以下の通り。
◆ 消えた少女(リチャード・マシスン)
◇ 悪夢団(ディーン・R.クーンツ)
◆ 群体(シオドア・L.トーマス)
◇ 歴戦の勇士(フリッツ・ライバー)
◆ ボールターのカナリア(キース・ロバーツ)
◇ 影が行く(ジョン・W.キャンベル・ジュニア)
◆ 探検隊帰る(フィリップ・K.ディック)
◇ 仮面(デーモン・ナイト)
◆ 吸血機伝説(ロジャー・ゼラズニイ)
◇ ヨー・ヴォムビスの地下墓地(クラーク・アシュトン・スミス)
◆ 五つの月が昇るとき(ジャック・ヴァンス)
◇ ごきげん目盛り(アルフレッド・ベスター)
◆ 唾の樹(ブライアン・W.オールディス)
SFホラーといえば、ぼくなど真っ先に映画「エイリアン」を思い浮かべてしまうのだが、やはりSF
&ホラーというテイストに限定すると未知なる生物との邂逅が一番人気があるようで、本書の中でも四
編がそのパターンを踏襲している。なかでもとびきりおもしろかったのが表題作にもなっている「影が
行く」である。これは映画「遊星からの物体X」の原作なのだが、正直『物体X』の描写には陳腐な印
象を受けた。しかし、誰が本物で誰がニセモノなのかという謎を軸に、極限状態での死闘がムード満点
で描かれかなり読ませた。読了後も強く印象に残る傑作だ。
同じテーマを扱いながらも舞台を19世紀のイギリスに設定することで新たな面白味を味わわせてくれ
るのが「唾の樹」だ。こちらは物語としてオーソドックスな展開なのだが、それがまた良かった。あの
有名人も登場するし、これも忘れがたい印象を残す。
C・A・スミスといえばクトゥルー物でも有名なのだが、彼の描くSFホラーはその影が色濃く反映さ
れている。火星の古代遺跡の地下墓地なんて絶対入るものかと思ってしまうのだが、告白文体で進行す
るこのお話ではそんなわけにはいかなくて、入った人たちが凄い恐怖を味わうことになる。
違うパターンの話では「ごきげん目盛り」が素晴らしかった。ここに登場するアンドロイドのサイコぶ
りはかなり不気味だ。ベスタ-恐るべし。
「消えた少女」も単純ながらサスペンスフルな展開で読ませる。
「探検隊帰る」は、やはりディックだけのことはある。これは怖い。展開においてこちらの予想をこれ
だけ快く裏切ってくれるとは。そして怖くて哀切きわまりないこのラストの見事さよ。
端折ってしまったが、他の作品もみな水準以上の出来だと思う。ということは、このアンソロジーは買
いだということだ。やはり編者の中村融氏のセンスがいいのだろう。
SFホラーといえばキワモノっぽくてB級な印象を受けてしまうのだが、本書は読んでソンのないアン
ソロジーだと思う。未読の方は是非どうぞ。