者の受賞第一作である。
デビュー作を飛び越えて本作を先に読んだのだが、いやあ驚いた。大傑作ではないか。
本書で描かれるのは、信長、秀吉、家康の三人の覇王の歴史である。
それが壮大に、幻想的に、エキサイティングに描かれる。
タイトルからもわかるように、本書のメインに据えられてるのはあの『聚楽第』である。
く瓦に金箔をはり贅を尽くしたこの世の極楽ともいうべきもので、秀吉が関白を甥の秀次に譲ってから
は、秀次の居所となった場所である。
まず驚くのはこの今では確かな痕跡もなく、その威容を伝えるのは屏風に描かれた鳥瞰図のみという現の
夢のような存在だった『聚楽第』が、眼前に現出した点だ。尚且つ、その地下に迷宮ともいうべき錬金窟
を配し、妖異で蟲惑的な世界を描き切っている。
荒唐無稽という言葉が、これほどぴったり当てはまる作品はめすらしい。いやいや、これは褒めているの
であって、決してけなしているのではない。作者の術中に見事にはめられてしまった。
この作者なかなかの巧者で、本書の構成もおもしろい。この本、文庫で700ページを越えるという長大
な作品なのだが、その5分の1を占める序章と第一章はことごとく伏線の集合体として描かれているの
だ。しかし、それがめっぽうおもしろい。読者の興をつなぎ、あきさせることなく本筋へと導く手腕
はたいしたものだ。
歴史的事実と伝奇的要素を結びつける新解釈も、まことに鮮やか。事実だけが残っている様々な出来事に
ついて、その裏に隠された真実を描いてみせるところなど、あの山田風太郎の手並みを思わせる。
殺生関白秀次については、表面的なことしか知らなかった。謀反気があったということで本人が自刃した
仕打ちだと思っていた。秀吉の怒りのみの解釈では割り切れない思いだったのである。
それがどうだろう、本書で明かされる解釈の素晴らしいこと。
しかし、この刑場での場面は酸鼻である。次々と首をはねられる女子の姿は正視に耐えない。
その他、数々の文献に残る様々な不可思議な記述に次々とこたえていく構成の巧みさには舌を巻いた。
しくて醜悪ながらも敏捷な秀吉に感服したにも関わらず、この宇月原『秀吉』にはメロメロになってしま
った。
の再来などとオビに書かれているが、いやいや本書のほうが上でしょう。燃える城のプロローグから
家康が死の床でつぶやく鮮やかなラスト一行の一言まで、間然することのない傑作である。