読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

三羽省吾「太陽がイッパイいっぱい」

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大学生のイズミは、付き合っていた彼女の「海外旅行に行きたい!」という一言を機に、日雇いのバイ

トをするようになる。そこで「マルショウ解体」の親方に引き抜かれ、いまは大学にも行かず毎日過酷

な労働に汗を流している。きっかけを作った彼女とも別れ当初の目的を失った彼が大学にも戻らずなぜ

そんなキツイ仕事を続けているのかというと、それは仕事が終わったあとに飲むビールが旨かったから

なのだ。イズミはこのビールの旨さにほとほとまいってしまった。金で買えないものを、生まれて初め

て手に入れたと充実した感動を味わったのだ。

本書は、そんなイズミを中心に「マルショウ解体」で働くオモロイ男たちを描く青春小説である。

この人の作品は本書が初めてだったが、いっぺんでファンになってしまった。

ぼく自身建設関係の仕事をしているので、描かれる世界がすごく身近に感じられたし、舞台が大阪とい

うのも親近感を増した。

とにかく登場する面々がおもしろい。なんといっても一番印象に残るのが、怖いもの知らずのカンであ

る。身長185cm、体重90kgという巨漢マッチョ丸坊主で、その態度のクレイジーさはこう説明され

る。『もし、チンピラという言葉の意味が分からない外国人だか宇宙人だかがいたら、カンの仕草やら

語り口調やら服装を見せればいい』。本書の中でズバ抜けて笑いを誘うのが、このカンの言動だ。彼の巻

き起こす騒動は、はちゃめちゃで痛くて派手なことこの上ないが無類に笑える。

他の面々も個性的だ。イケメンなのに女性が苦手で、付き合ってる彼女はデブでぶさいくだというクド

ウや、リストラされて女房にも逃げられ目の悪い息子の治療費のために身を粉にして働くハカセ、留学

生で奇妙な関西弁を使うコウ、元ヤクザで男気のある親方のマルヤマショウキチ。

みんなみんな可笑しくて、愛しい人ばかりだ。そんな彼らの日常を明るく大らかに描きながら物語は進

行していくのである。

でも、明るいだけではない。そこには様々な問題が浮上してくるのである。「マルショウ解体」の経営

不振、現場でのトラブル、カンの脱退、ハカセの息子の病状等々。そこには、いつもの調子で笑い飛ば

すことの出来ない深刻さがあった。

しかし、暗さは感じない。みんながむしゃらで熱くて真っ直ぐだから、読んでるこちらも気持ちがいい

のだ。なにはともあれ、たぐい稀なるユーモアに包んでガチンコ勝負的な熱い日常を描く本書は青春小

説の快作であり、人間のたくましさを描いた読んで元気の出る小説なのである。