まずは収録作をば。
「忍法鞘飛脚」
「つばくろ試合」
「濡れ仏試合」
「伊賀の散歩者」
「天明の隠密」
「春夢兵」
「忍者枝垂七十郎」
「忍者死籤」
それぞれなかなか趣向を凝らしていて飽きさせないところはさすが山風。これらの作品を執筆したのが四十代後半から五十代にかけてだから、もう脂が乗りきってるよね。
人間の根源的な死と性についてとことん追求しちゃうところが、あけっぴろげで凄絶なのにどことなくユーモラスなのはどうしてか?ま、なんでもやりすぎると滑稽さが滲みでてきちゃうんだろうね。欲望と誠実と狡猾と実直、それらが相反して回って人間のどす黒い真実の姿が浮かびあがってくる。
いや、そんな分析はどうでもいいや。とにかく各短編常套を逸脱したりして、いってみれば古き良き遊園地のビックリハウスみたいな無謀なあしらわれ方されちゃったと思っていたら、最後には見事に収まるところに収まっちゃってホントびっくりみたいな。
中にはミステリ作家としての面目躍如たるトリッキーなどんでん返しの連続が快感な「天明の隠密」や、ストックトンの「女か、虎か」顔負けのリドル・ストーリーの王道をゆく「忍者枝垂七十郎」なんてのもあるし、「忍者死籤」なんかこのページ数でこの構成でいったいどう収拾つけるんだ?なんてハラハラものの作品もあったりして、いやあ、楽しい。
有名人物も色とりどり。山風作品ではおなじみの面々から初登場の間宮林蔵までうれしい驚きの連続だ。角川文庫から刊行されていた忍法帖の短編集も『くノ一紅騎兵』と『忍法女郎屋戦争』のあと二冊。読みたい。でも読んじゃうと終わっちゃう。またまたジレンマだ。