読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山田風太郎「八犬伝(上下)」

 

 

 ぼくが読んだのは朝日新聞社の単行本なんだけど、これで書きます。もちろん、当時初版で買いました。ぼくは丁度中学三年だったかな?風太忍法帖の洗礼を受け、もう風ちゃんにメロメロになっていた時期でございました。

 でも、これ忍法帖じゃないでしょ。それに単行本でしょ。だから中学生の身にとっては読めるのかな?買って結局読めませんでしたってことにならないかなって買うのをえらい逡巡したのをおぼえております。しかし、思い切って買って読みはじめたら、ああたこれがすこぶるおもろいでやんの。八犬伝は、この本が刊行される前年に鎌田敏夫の「里見八犬伝」が角川ノベルズから刊行されていて、ぼくはそれをたいそうおもしろく読んだので、馴染みがあったし、ま、いってみれば素養はあったんだよね。

 で、風太郎版「八犬伝」はっていうと、そりゃあ普通に描かれるわけがなく、虚の世界と実の世界が交互に語られるという構成をとっている。虚の世界は、もちろん八犬伝の物語の世界。実の世界はそれを執筆する曲亭馬琴の世界となっている。

 中学生のぼくにとって忍法帖でない風太郎小説はなかなか刺激的だった。ここには史実に基づいた物語があった。まだ虚の世界しか知らなかったぼくには新鮮な物語だった。しかも、しっかりと虚の世界も描かれているのだ。やはり、山田風太郎は間違いなく最強のエンターテイナーだった。

 それぞれの世界が呼応しながらラストに向けて収束してゆく。二十八年にもわたって書き綴られた八犬伝という物語。曲亭馬琴葛飾北斎という二人の天才。はっきりいって、紆余曲折が多く脱線につぐ脱線の本家本元より、この山風版『八犬伝』のほうが数億倍面白いのは必定。

 未読の方は是非お読みくださいませませ。