やはり手軽にその作家の作風や傾向を知るには、短編集が一番なのであります。
キプリングといえば、インドなんだけど、ディズニーの『ジャングル・ブック』は知っていても、なんだかわかったようなわからないような感じでしょ?でも、この短編集を読めばキプリングの初期の頃から晩年までの作品が抜粋されていてその変遷をうかがうことができるってわけ。収録作は以下のとおり。
「領分を越えて」
「モウロビー・ジュークスの不思議な旅」
「めぇー、めぇー、黒い羊さん」
「交通の妨害者」
「橋を造る者たち」
「ブラッシュウッド・ボーイ」
「ミセス・バサースト」
「メアリ・ポストゲイト」
「損なわれた青春」
以上9編。
初期の頃の作品は、語り口からインドという舞台設定から、まるでマジックリアリズムのはしりかと思うほどある意味ファンタジックな雰囲気が横溢していた。そこには文明社会から隔離されたかのような土俗的あるいは風変わりな因習的風習が長々と横たわっており、いくらハイレベルな学歴や都会的な洗練をもってしても太刀打ちすることはできない。「領分を越えて」の目に焼き付く鮮烈な仕打ちも、「モウロビー・ジュークスの不思議な旅」に登場する『とある人々』が受けている仕打ちにも太刀打ちすることはできないのだ。その不思議で宿命めいた透徹された人生観は半ばの「ブラッシュウッド・ボーイ」で少し様相を変える。ここでは一人の男性の半生が描かれているのだが、ここには因習や風習はまったく登場せず、しかし運命もしくは宿命の巡りめぐって到達する奇跡が描かれる。ある意味、非常に壮大で映画的な作品だ。これ以降の作品はもちろん後期のものとなるのだが、ここでキプリングな少し難解さを押し出してくる。歳をとって老獪な部分が出てきちゃったのか?なんちゃって。
まあでも、「ミセス・バサースト」以降の作品はテキストとしての韜晦文学めいた巧みを感じた。韜晦っていっても、行間を読むというか表現の裏の意味を探るというか、そこに秘められた何かを汲み取らせる意図が潜在しているという感じ?特に感心したのはラストの「損なわれた青春」。これは素晴らしい作品で、短い中にストーリーの起伏があり、反転する世界感があり、人間の深い部分での心の揺れがあり、最後まで目が離せない。
というわけで、キプリングとってもおもしろかった。どこかもっと短編集出してくれないかな。