リテラリーってなんだ?と検索したら、主に読み書きの能力とかいうのね。ま、ゴシックという定義にてらして編者が判断して、お眼鏡にかなった作品が集められているというわけ。副題にもあるとおり文学としてのゴシック作品集なのだ。
で、いまさらだけどゴシックってわかったようでうまく説明できないよね。いってみれば、ホラーの概念もよくわからないんだけど(笑)。ぼく的にゴシックって怪奇とか恐怖とかの前に頽廃とか衰退とか腐敗とかの雰囲気があるんだけど捉え方間違ってるかなあ?そうそう少し耽美も混じってるね。直接的な心因のみでくくるんじゃなくて、そこには少しマイノリティなちょっと変態チックな部分が含まれているような気がするのだが、どうだろう?偏った考えかな?よくわかんないや。
で、本書はそのゴシックを愛する高原英理氏が日本国内で書き継がれてきたこの系譜の作品を(といっても、作者本人がそのつもりじゃなくて、結果ゴシックに分類されている作品もあるんだけど)選りすぐったアンソロジーというわけ。収録作は以下のとおり。
1 黎明
「夜」 北原白秋
「絵本の春」 泉鏡花
「毒もみのすきな署長さん」 宮沢賢治
2 戦前ミステリの達成
「残虐への郷愁」 江戸川乱歩
「かいやぐら物語」 横溝正史
「失楽園殺人事件」 小栗虫太郎
3 「血と薔薇」の時代
「月澹荘綺譚」 三島由紀夫
「醜魔たち」 倉橋由美子
「僧帽筋」 塚本邦雄
「第九の欠落を含む十の詩篇」 高橋睦郎
「僧侶」 吉岡実
「薔薇の縛め」 中井英夫
「幼児殺戮者」 澁澤龍彦
4 幻想文学の領土から
「就眠儀式Einschlaf‐Zauber」 須永朝彦
「兎」 金井美恵子
「葛原妙子三十三首」
「高柳重信十一句」
「大広間」 吉田知子
「紫色の丘」 竹内健
「花曝れ首」 赤江瀑
「藤原月彦三十三句」
「傳説」 山尾悠子
「眉雨」 古井由吉
「春の滅び」 皆川博子
「人攫いの午後 ヴィスコンティの男たち」 久世光彦
5 文学的ゴシックの現在
「暗黒系Goth」 乙一
「セカイ、蛮族、ぼく。」 伊藤計劃
「ジャングリン・パパの愛撫の手」 桜庭一樹
「逃げよう」 京極夏彦
「老婆J」 小川洋子
「ステーシー異聞 再殺部隊隊長の回想」 大槻ケンヂ
「老年」 倉阪鬼一郎
「ミンク」 金原ひとみ
「デーモン日暮」 木下古栗
「今日の心霊」 藤野可織
「人魚の肉」 中里友香
「壁」 川口晴美
「グレー・グレー」 高原英理
どうです、この豪華な顔ぶれ。ゴシック好き嫌い関係なく読んでみたくなるでしょ?印象に残った作品はね、まず今回初めて読んだ小栗虫太郎。これはヒドい話だわ。悪趣味満開(笑)。で、肝心のミステリのトリックあんまりよくわからないし、でもそんなのどうでもいいくらいの衝撃映像です。倉橋由美子は文章の森を分け入る困難さが逆に快感。金井美恵子の「兎」は以前に他のアンソロジーで読んでいるのに、すっかり忘れていた作品。血まみれでコベコベなのに臭くないんだよね。吉田知子も他のアンソロジーで他の作品読んでいたんだけど、この「大広間」にはやられちゃいました。この人追っかけるわ、おれ。
あとは、現在パートが注目なんだけど、ここは少しインパクト弱いかな。乙一の作品は掴みはOKなんだけど、ライトすぎるかな。死体はグロいんだけどね。「老婆J」、「ミンク」、「デーモン日暮」、「今日の心霊」などは、ちょっと笑いの要素が入ってたりして、これはこれでオモロイけど、ゴシックの括りではちょっと違和感あるかな。逆に「老年」、「人魚の肉」、「グレー・グレー」は、血しぶきの中にメランコリックな部分があって、惹かれるね。
ま、とにかく贅沢なアンソロジーなのは間違いない。これは読むべし。