読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

窪美澄「アニバーサリー」

 

 

アニバーサリー(新潮文庫)

アニバーサリー(新潮文庫)

 

 

 

ほんと久しぶりにこの人の本を読んだ。これが三冊目だ。デビュー作と「青天の迷いクジラ」は、どちらも素晴らしい作品で、とても感銘を受けたので、本書も強烈なインパクトを与えてくれるのだろうと期待していたら、これが少し違ったみたい。

 本書で描かれるのは世代の違う二人の女性の人生。片や70代のあばあさん。片や30代の未婚の母。それぞれが東日本大震災が起きたときに、再会する場面から一気にそれぞれの生い立ちへと物語はシフトしてゆく。70代の晶子は第二次世界大戦を生き延び、激動の昭和を乗り越えいまも現役のマタニティスイミングコーチとして働いている。一方、カメラマンでささやかに食いつないでいる真菜は、料理研究家として名を成した母の陰で物に満たされ心が満たされない子ども時代を経て、自分を安売りする学生時代を過ごし、未婚で身ごもり一人で産んで育てる決心をする。

 まったく違う二人の女性。世代も性格も生い立ちも。本書の大半はそれぞれの女性の半生にページが費やされる。戦争によって、心底ひもじい思いを味わった晶子。寂しい家庭生活の中で自分の居場所がわからなくなり唯一の友達に依存していく真菜。それぞれが違う人生を歩んで、やがてそれが交差する。そこにあるのは、思いやりと人と寄りそう気持ちだ。終戦や大震災といった人生の岐路となる出来事は、それが祝福されないものであっても『アニバーサリー』となる。

 人は生きてゆく上で、数々のイベントに立ち会う。幸もあれば不幸もある。どちらであってもそれを乗り越えて人は進んでゆく。老いも若きもすべて等しく人生の幸と不幸はある。

 そういったことは伝わってくるのだが、しかし本書はインパクトに欠けた。この人の作品にしては、イマイチ強調されたものがなかった。概ね二人の年齢の違う女性たちの人生を追体験し、不安の中にも少しの希望と残酷な現実を感じながら物語は閉じられる。うーん、少し弱いんだなぁ。