文芸ミステリということで、ミステリ畑の作家ではない方々のミステリ寄りの短編アンソロジー。収録作は以下のとおり。
「驟雨」 井上靖
「春の夜の出来事」 大岡昇平
「断崖」 小沼丹
「博士の目」 山川方夫
「生きていた死」 遠藤周作
「剃刀」 野呂邦暢
「彼岸窯」 吉田知子
「上手な使い方」 野坂昭如
「冬の林」 大庭みな子
「ドラム缶の死体」 田中小実昌
野呂さんは知らないけど、それ以外は有名だからよくご存じで。それぞれ謎があって、それが解決されてという展開ばかりではなく、結末が曖昧なまま読者にゆだねられているものが多い。だが、それが納得いかないわけではなく、それはそれで受けいれられてしまうから、不思議だ。不思議といえば、書かれた時代が60年代から80年代と古いのに、読んだ感触はまったく古臭くないのだ。ただ思うことは、小説というかストーリーには必ず謎があって、それを探求する過程が描かれるということ、大なり小なりね。だから、文芸云々ではなく、小説そのものにはミステリとしての結構がそなわっているのだ、あらためていうまでもなくね。吉田知子は、やはりいい。何もわからないところから、背景が徐々に浮かび上がってくるところが素敵。最後まで読んで、氷解する構成が秀逸。もうひとつ言及しておきたいのが田中小実昌ね。これは、ゆるゆると進められる究明がふざけているようで核心をついているところが流石だ。
というわけで、本書は読んで損のない良質のアンソロジーだ。すぐ読めちゃうので、ぜひお読みください。