読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山田風太郎「忍法剣士伝」

 

忍法剣士伝 忍法帖 (角川文庫)

忍法剣士伝 忍法帖 (角川文庫)

 

 

 

 これはかなり豪華なキャスティングの忍法帖なのだ。時は信長の時代。剣士の後援者としても有名であり自らも剣士として名を成した北畠具教のもとに十二人の剣豪が集まっていた。なぜならば、いよいよ信長がこの地にまで手をのばし、北畠滅亡か否かの重大な局面を迎えていたからだ。信長は、自身の息子信雄の嫁として具教の娘、旗姫を差し出せば侵攻はしないというのだが、旗姫自身はその命運を北畠家お抱えの伊賀忍者 木造京馬の言うとおりにすると言う。実をいうと旗姫は京馬のことを好ましく思っていたのだ。

 いやいや、真面目にストーリーの紹介をしようと思ったけど、やめておこう。どうして?いや、本書はね、山田先生のおふざけがMAXになっちゃった作品だから、いくら真面目に紹介したって事の真相に直面したら、誰もが唖然としちゃうこと請け合いですから。以前にも紹介した「自来也忍法帖」てのがあったけど、あれのオープニングにも度肝抜かれたけど、本書は、ああた、名のある剣豪たちがみな揃ってとんでもない事になってしまうのであります。

 ここに登場するのが果心居士由来の幻法「びるしゃな如来」。その術をかけられた女人を見た男は、その女性を手に入れようと異常な執着を示すが、近づいて十歩圏内に入ると激しく精を漏らして腰砕けになってしまうというなんとも恐ろしい術なのである。

 で、それにまんまとかかってしまったのが十二人の剣豪たちなのだ。その名を挙げると、

 ・ 林崎甚助

 ・ 諸岡一羽

 ・ 富田勢源

 ・ 宮本無二斎

 ・ 吉岡拳法

 ・ 宝蔵院胤栄

 ・ 柳生石舟斎

 ・ 鐘捲自斎

 ・ 伊藤弥五郎(のちの伊藤一刀斎

 ・ 上泉伊勢守

 ・ 塚原卜伝

 みな実在の人物ですよ。時代物に詳しくない人にとったら誰?って感じだろうけど、山田先生は、これらの剣豪のそれぞれのエピソードも盛り込みながら話をすすめるので、これが無類に楽しい。かくいうぼくも半分くらい知らなかったもんね。で、素晴らしいのがこんなばかばかしい話を大真面目に展開して、尚且つそれをページ措く能わずという手並みですすめてゆくその手腕と、こんなばかばかしい話を史実と無理なく絡めて、驚くことにそれがこの結果招いたなんて結論まで導いてしまう手際の良さなのであります。

 まあ、やってくれるよね。解説で中島河太郎先生も読み終わるのが惜しいほどおもしろいと書いているけど、それほどでもないにしろ、おもしろいのにかわりはなく。風太忍法帖の中では中くらいの出来かなって思うけど、ガチャガチャと楽しい本なのであります。