読書の愉楽

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阿部智里「発現」

  

 

発現

発現

  • 作者:阿部 智里
  • 発売日: 2019/01/30
  • メディア: 単行本
 

 

 

読んでいる間、ずっと小野不由美の「残穢」みたいな話なのかと思っていた。何代も続く負の連鎖。物語は平成三十年と昭和四十年を交互に切り取りながら進んでゆく。接点はあるんだろうけど、繋がりは見えないまま不可解な現象に直面する人々が描かれる。自ら命を絶ってしまうような恐怖。自分以外の人には理解されないその幻視は、時を経て繰り返される。

  結局、それが何なのかはわからない。事は、終息していない。物語は帰結をむかえないまま閉じてしまう。ファンタジーともホラーとも違う。いったいここで何が行われているのか?ぼくは、その思いを反芻しながら本を閉じた。

  驚くべきは、ラストの展開だ。お涙頂戴的な場面でこちらはウルウルしてるのに、思いもよらない衝撃の一行によって横っ面を張りとばされてしまった。ここは、すごい。こんな転調いままで体験したことがなかった。まさにトドメの一撃だ。どういうことかは、実際読んで確認していただきたい。きっと驚くよ。

  しかし八咫烏のシリーズで慣れ親しんできた著者初のノン・シリーズだが、これはあまり成功してる作品とはいえない。注目すべき点はあるが、佳作でさえないとおもう。