清水義範がこんな本を書いてたなんて知らなかった。うっかり見落としてたなぁ。平成12年かぁ。ついこのあいだじゃん。T・ハリスの「ハンニバル」と一緒に刊行されてるから、店頭で見てたはずなんだけどなぁ。まったく記憶にないや。この藤田新策の表紙はインパクトあるから、見てたら憶えてると思うんだけどなぁ。しかしこの人器用な人だな。もっともその器用さが逆に徒になっている感は否めないけど。
本書には7編の作品が収められている。それぞれ趣向が凝らしてあって、飽きさせない。
「彼ら」はあのキングの「IT」をパロってる。読んでて懐かしさを感じた。でも、それが只のパロディになってないところがミソ。ラストで世界が反転し、読者にうっちゃりをくらわせてくる。ぼくは、あんまりヤラれたぁ、とは思わなかったが。
「延溟寺の一夜」は、ストレートなホラー。一種の幽霊屋敷物になるかな?大林宣彦の「HOUSE」を思い出してしまった。
「オカルト娘」は、霊体験とは無縁だった女の子が大学進学に伴って一人暮らしを始めたことから霊現象に悩まされる様を描いている。しかしその一つ一つについてコメントが挿入され、霊の仕業だと思われる現象がいかに人間の勘違いや思い込みによって引き起こされているものなのかが説明される。要するに超常現象批判だ。でも、それがラストに至って逆に効果的に怖さを引き立たせていく構成は秀逸だ。ぼくはこの作品好きである。
「魔の家」は、タイトルから想像されるようなホラーではない。これはある老女が一人暮らしでも不自由しないようにと息子に建ててもらったハイテク技術満載の家で、身も凍る一夜を過ごす様を描いている。老人に限らず、こういったハイテク家電に疎い人は多いものだ。そういった人にとっては、身に迫る恐怖を味わえる一品。
「乳白色の闇」は、モノローグで話が進められる。檻の中で生命の危険に怯えている『おれ』。でも、これは仕掛けがすぐにわかってしまった。わからなかったら、ラストで驚くことになっただろうけど。
「メス」は、とりたてて言及することもない作品。まっ、こういう人って多いよね。
「ターゲット」は、本書の中で一番長い作品であり、表題作になっているだけあって圧巻だった。この作品はクーンツの「ストレンジャーズ」を下敷きにしている。頻繁にみる悪夢や、身の回りに起こる奇怪な現象。そして、理由をおなじくして集まってくる5人の男女。彼らを結びつけているのは、とある一日の思い出すことのできない7時間。いったいその日に何があったのか?
これはおもしろかった。消えた記憶というテーマが好きだ。主人公の悪夢に登場する鋏とはなんなのか?
恋人のみる悪夢の自分の身体が飛び散ってしまうイメージとはなんなのか?また、眼球に串の刺さった絵と、押しつぶされた猫の死骸の絵の秘密とは?これらの一見バラバラにおもえるイメージが、真相にいたって見事に解決される。これらを一つに結ぶ解答があるのだ。誰もがこの解答には『ええーっ!!』と驚くことだろう。まさか、こうくるか!と思うはずである。でも、ぼくはここで感心してしまった。バカバカしいとは思わなかった。この作品カッコいいとまで思ってしまった。清水義範ちょっと見直しました。
というわけで7編を簡単に紹介してみた。ぼくとしては「ターゲット」と「オカルト娘」を読めただけでも本書を読んで良かったなと思った。軽くてすぐ読める本だし、これは結構満足したな^^。