この感触はなんだろう?とずっと思いながら読んでいた。とても短い作品でもあり、すごく読みやすいの
で、あっという間に読み終えてしまうのだが、これがなかなかどうして結構ガッチリと心に食い込んでく
るのである。しかし、それはいい意味での食い込みではない。どちらかというと、とても後味の悪い食い
込みなのだ。人間の欲望と残酷さ、それに弱い部分をこれでもか!と描いてる本書は本来なら唾棄すべき
所業に溢れていて、まったくもって不埒なことこの上ない。主人公である高校教師の男がとる行動と心理
は犯罪者そのものであり、彼と行動を共にする風俗嬢サチコの痛々しくもユーモラスな様によって幾分か
は緩和されてるといっても本書を読んで嫌悪する人が多いだろうことは容易に想像できる。
でも、ぼくは違った。本書を受け入れた。そして、こんなにいやらしい本を嫌悪することなく読みきって
しまったことに嫌悪した。山田詠美が本書を評して『これほど感情を翻弄された小説は久しぶりです』と
いっているが、ぼくは翻弄されることなく受け入れてしまった。
人間は元々身の内に衝動を隠しもっている。『衝動』とは欲求のもっとも強い感情だ。それは人それぞれ
違ったものなのだとは思うのだが、大なり小なり人はなんらかの衝動を抑えこみながら日々生活を送って
いるのだ。だが、それが発露することはない。きっかけと温床があり、ちょっとした後押しがあれば表面
に出てくることもあるかも知れないが、そんなにうまく条件が揃うことはまずない。だから、みんな社会
適応者として、なんのお咎めもなく真っ当な人生を歩んでいけてるのである。
本書で描かれているのは、その『衝動』に翻弄され転げ落ちていってしまう過程だ。だめだ、だめだと思
いながらもついつい作者の筆に乗せられて、落ちてゆく快感を味わいながら読みすすめてしまった。
もうどうにでもなれ!という気持ちにさえなった。ここに登場する男女は、爛れきった関係を究極にまで
追い求めた結果、後戻りできなくなってしまうのである。つかず離れずお互いを貪って破滅する様は醜悪
を通り越して神々しくさえ感じてしまう。人間はこういう生き物でもあるのだ。これがリアルじゃないな
んて言わせない。自身が体験していないだけで、その衝動は誰もが身の内にもっている。それを知るのが
怖いから嫌悪という感情があるのだ。
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