読書の愉楽

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松本清張「鬼畜―松本清張短編全集〈07〉」

鬼畜 松本清張短編全集07 光文社文庫(松本清張) / 栄文社 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」

 

  収録作は以下のとおり。

 ・ なぜ「星図」が開いていたか

 ・ 反射

 ・ 破談変異 

 ・ 点

 ・ 甲府在番

 ・ 怖妻の棺  

 ・ 鬼畜

 この中の三編は既読だった。残り四編のうち三つが時代物。まず「破談変異」は、簡単に言えば仲人争いの話。でも、その相手が春日局だから、そりや勝てないわ。で、なんとも凄惨な結末を迎えてしまう。こういう話っていまでは少なくなってしまったのだろうが、それでも人間関係の中で、上下の重圧に押し潰されてしまうのはよくある話で、そこにはたらく負の均整は簡単に傾いてしまうのである。
「点」はなんとも悲惨な話で、これは現代物なのだが当時の暗く低い雲が常に覆いかぶさっているみたいで気持ちが沈むようであり、逆撫でするようでもありキーとなる幼い女の子の悲惨な境遇を受け入れきって達観しているような姿が、かわいそうでもあり薄ら寒くもある。「甲府在番」では、江戸から左遷された者が江戸を夢見て朽ちてゆく甲府での出来事を描く。これはラストのいきなりな場面切替えに驚く。決着の付け方としてあくまでもイレギュラーなのだが、それが破綻していないところが素晴らしい。「怖妻の棺」は、よく見る話なのだが、途中の展開で思わず笑ってしまった。珍しい事だ。これも、現代に通じる話。  

 推理小説家だと思っていた清張のこんなにも彩り豊かな時代・歴史小説を読むのが楽しい。切り取られる題材が現代にも置き換えられるものなので、馴染み深い。尚且つそこに時代の特色が活かされてくるのでテイストが加わり驚きが生まれる。この人は根っからのストーリー・テラーであり、何が読者の興味を引くかを知悉している職人作家なのだなと感心が止まらない。