読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

今村翔吾「イクサガミ 地」

イクサガミ 地 (講談社文庫)

 

  京八流という剣の流派をご存知?ぼくは本書で初めて知ったのだが、これは架空のモノではなく実在したものらしい。平安後期に鬼一法眼が京都の鞍馬山で8人の僧に伝授したものを祖とし、様々な流派に派生していったそうな。しかし、その始祖たる鬼一法眼自体が伝説の人物と言われているみたいだけどね。

 本書の主人公である嵯峨愁二郎は、もともと孤児で他の七人の孤児と合わせて八人でこの最古の剣術を継承。それぞれが『北辰』、『武曲』、『禄存(ろくぞん)』、『破軍』、『巨門』、『貪狼(とんろう)』、『廉貞(れんじょう)』、『文曲』を習得。しかし、この流派の継承者はたった一人。ゆえに幼い頃から兄弟同然に育った彼らは、たった一人の生き残りをかけて殺し合いをしなければならないのである。しかし、嵯峨愁二郎はその最終決戦の前日に逃亡する。血はつながっていないとはいえ、幼い頃から一緒に育った彼らと殺し合いをするなんて考えられなかったのだ。この京八流の流儀を破った者に制裁を加える役目として朧琉の岡部幻刀斎という化物がいる。彼は掟を破った者を地の果てまで追い、処刑する役を担っている。この京八流と朧琉の関係は開祖の頃から続いており、どちらも継承を重ねて現在にいたっている。

 さて、以上の設定を踏まえて第二巻なのであります。前巻から描かれていたのだが、幻刀斎もこの殺し合いゲームの『蟲毒(こどく)』に参加しているのである。愁二郎の兄弟もそれぞれの思惑を秘めて参加。それが東京を目指す行程で徐々に明らかになってゆく。幻刀斎の全貌が明らかにされない分、彼の化物然とした存在が強調され、ラスボス感が強まってくる。兄弟たちは、『蟲毒』のレースに参加しながら幻刀斎にも対処しなければならなくなる。

 ただの殺し合いで済まされない複雑な内情が、読み手の感情を盛り上げる。殺し合いというだけでも尋常でないのに、そこに参加者たちのそれぞれのドラマが加わるから手に汗握る展開となる。この巻で新たな事実が次々と発覚。物語自体もそれに合わせて大きくうねってゆく。史実も同時に描かれ、それが有機的に効果的に物語に関わってくる。ここらへんの呼吸は読んでいてゾワつくところだ。