まあ、歴史を知っている人なら秀吉による三条河原の大虐殺は、本能寺の変と同じくらい有名な事件であり、史実としてどうなったのか?は一目瞭然なのだけれど、それを題材にこれだけのストーリーが描かれるんだから、歴史小説はおもしろいよね。
しかし、知ってはいても、当事者としての立場、心情をこれだけ書き込んだ作品は読んだことがなかった。裁きを下す側、裁きを受ける側それぞれの思い、疑念、希望、恐怖がまさに手に取るように感じられて息苦しい。
本書の命題はただ一つ駒姫とおこちゃ(駒姫の侍女として仕えている御物師)の二人を三条河原の刑場から救うことができるのかどうかなのだ。
さて、歴史の事実はどうなの?知らない人は真から本書の先行きが気になって仕方がない読書になるだろう。じゃあ、知っている人はどうなのか?ぼくもそっち派なのだが、これはこれで動悸が激しくなっちゃうくらいグイグイ引き込まれてたのである。
上手い。まったく上手い。結末を知っている話なのに、これだけハラハラさせられちゃうなんて、思いもしなかった。史実を題材にしながらも、そこに配置する実在の人物を介して物語を紡ぐのは作者であり、そこには多角的な思考が入るワケなく、もっぱら作者一人の匙加減で物語は進むのである。あくまでも創作なのだ。そんなことは改めて言われなくてもわかってる?そりゃそうだよね。当たり前だ。でも、改めてそういう基本的なことに感心しちゃうような上手さが本書にはあるのだ。
本書を読んでいると理不尽な権力の暴力に晒される人々の、恐怖に耐えながらも自分を律し決して自分を見失わない強さに何度も感動した。その感動は喉を熱くし、腹の底から込み上げてくるやり場のない怒りもともなった。専制君主となった秀吉。逆らうことの恐怖をこれでもかと植え付けた秀吉。我が子を守るため、甥とその一族郎党すべてを殺した秀吉。ぼくは関西人だが、秀吉がどうしても好きになれない。