読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ニワトリ解体

 家の近所に住む細くて色の黒いおじいさんは、ニワトリを飼っていた。ぼくはよくそこに遊びにいき、おじいさんがニワトリをつぶすところを見ていた。

 大きな切り株の上にニワトリを押さえつけ、一刀両断に首を刎ね、すぐさま足をもって逆さに吊るす。そのときはまだニワトリは激しく動いている。切断された首からは真っ赤な血が流れ落ち、あたりに生命の生臭い匂いがたちこめる。

 何度みても、ぼくは見たくない気持ちと見たい気持ちの狭間にはまり込んで身体が硬直してしまう。やがてニワトリは動かなくなり血潮もでなくなる。そうするとおじいさんはニワトリの羽をむしりとる。あたりに細かくて白い羽が舞い散る。裸になったニワトリはいつ見てもひ弱で痛々しい感じがした。手でむしりとれる羽がなくなると、側に置いてあった大きなバケツの中の水にほりこんでざぶざぶ洗い、腹を裂いて内臓を取り出す。ほとんどは側で燃やしている焚き火にほりこんで燃やしてしまう。鮮やかでクネクネしている内臓が燃えだすと香ばしいような生臭いような不思議な匂いがしてぼくは頭がクラクラしてくる。

 おじいさんは日本人じゃないので言葉を発しない。だからぼくたちの関係は友好的なものではなかった。仕事がすむとおじいさんは戦利品をもってそそくさと家の中に入ってしまう。残されたぼくは内臓が燃えるそばで血だまりに浮く蟻を見ながら、いま受けた衝撃を少しでも緩和しようと努力する。いつもそれがくり返される。
 
 以上のことを最近夢でみてすっかり思い出した。よって、ここに記しておく。