読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

間違いの悲劇

 オドトゥは真っ白で青い目、ピンクの耳がいつもピンと立っている。長い尻尾をふりふりしながら優雅に歩くさまは気品にあふれている。

 変わってブロンコは黒く金色の目がいつも鈍く光っている。短く切られた尻尾はまるでコブのように盛り上がり、音もなく獲物に忍びよる。

 二匹は双子だった。双子の宿命として、二匹はテレパスでもあった。物心つく前から、お互い頭の中だけで話をし、同じ音を聞き、同じ匂いを嗅ぎ、同じ夢を見た。

 「ダメ、ブロンコ、そっちは悪い匂いに満ちているわ」

 「なに、おれはそんなこと気にしちゃいないさ。オドトゥ、おまえは少し慎重すぎるんじゃないか」

 「以前にも、似たような事を言ってた奴がいたわ。ついこのあいだ、ベッカーに咬み殺されちゃったけどね」

 「ニッキーのことだろ?あいつは前が見えてなかっただけさ。おれにはよく見える目がちゃんと付いてる」

 「うそ、あんた身体から厭な匂いがしてる。怖いんじゃないの?」

 「怖い?なんでおれが怖がるんだ?おれは、いつも行きたいところへ行って、欲しいものをいただいて、好きなだけ食う。それだけのことさ」

 ブロンコは細い路地を抜け夜の暗闇が分厚いマントのように世界を覆っている曲がり角を勢いよく曲がった。

 ベッカーは飛び出してきたネズミを鋭い爪で一閃し、血をまき散らしながらもんどり打ったそいつを大きく開いた口で噛み潰した。頭を潰されたネズミはチュウと鳴いて絶命した。すぐ側に真っ白で気品漂うネズミが一匹死んでいた。ベッカーは、自分で仕留めた獲物ではないと判断し、漆黒のネズミだけを咥えて悠々とひきかえしていった。

 

 こうして双子のネズミは短い一生を終えた。オドトゥは死ぬ瞬間に前日に齧った茶色いマフィンの味を思い出していた。それはブロンコが死ぬ間際に思い浮かべたものだった。いや、それは二匹が一緒に見た夢のことだったのかもしれない。