読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

夢のこと

『殺し屋ウィッチャム』

1 冬と共に殺し屋は街にやってきた。それは街がまだひっそりと身を潜めている夜明け前のことだった。そのウィッチャムという名の殺し屋は、とりあえずダイナーに飛び込み温かい朝食にありついた。他に客はいなかった。ジューシーな炙った豚の骨つきあばら肉…

終末の光景

「醤油を一升飲んで死んだ人がいてんて」 「うそや。そんなん、飲もう思っても飲めるもんちゃうって」 「いや、ほんまほんま、いてんて。平安時代らしいけど」 「そうなん?しらんかったぁー」 子どもたちのくだらない会話を聞くともなしに聞いていると、窓…

「雨の日の美容室」

こんな夢をみた。 彼女と一緒に雨の中、美容室に行った。そこはめずらしくボードウォークのある店で、ぼくは彼女と並 んでボードウォークに設置してある椅子に座らされた。髪を切る前に軽く洗髪いたしますと言って椅子の 背を倒しながらクルッと向きを変える…

墓堀

こんな夢をみた。 土の匂いのする若い男がやってきて、道路に穴を掘ってくれという。ぼくはそんな理不尽な要求を、すんなり受け入れて、一生懸命穴を掘る。知らない間に右腕がつるはし兼スコップになっていて、それが結構使い勝手がいいので、見る間に大きな…

ヒトサライ

こんな夢をみた。 ぼくは誰かに連れられて、人っ子ひとりいない街の大通りを歩いている。手を引く人物が誰なのかは、その時点ではわからない。しかしぼくに不安はなく、気持ちはすごく満ち足りている。 叔父さん?それともお父さん?見上げるぼくの目線から…

首長男とアニマ

こんな夢をみた。 やたら首の長い男がいて、ぼくの隣りを歩いている。でも、ほんとうにその男の首は異常に長く、ぼくと並んで会話してる男の身体は二メートルほど後方にある。男の首は身体から前に突き出すような形で長く伸ばされているから、こんな変なこと…

『聖なる血と希望の丘ニコラ教団』と夢の図書館

クァンメルクから北に数マイルいったところに、『聖なる血と希望の丘ニコラ教団』といういかにもいかがわしい名の宗教団体の本部がある。何もない砂漠の町で、道を通り過ぎるものといえば回転草くらいしかない辺鄙なところだ。教団の建物はガラクタの寄せ集…

「寛永忍法帖」

刺髪天膳(さしがみ てんぜん)という最強であり最凶の刺客が来るという情報を得た公儀隠密伊賀組の服部億蔵たち一行は深夜、三舘ヶ原の廃寺に集い対応策を評議した。神楽千二郎(かぐら せんじろう)、濁酒十兵衛(どぶろく じゅうべえ)、蝦夷梵六(えみし…

事件の行方

事件は薄汚れた下町で起こった。ぼくは、その日の朝から体調が悪く鼻の曲がりそうなオナラを30分に一回ぶちかましていた。おそらく前夜に食した韓国料理があまり合わなかったのだろう。豚の脂とニンニクを同時に食べると、いつもこんな調子だ。 そんなこと…

本を読むぼくを見ているぼく フランケンシュタイン風ドッペルゲンガーの物語

本を開いてみる。ざらついて黄ばんだページには、読めない文字が並んでいた。でも、ぼくはそれを一生懸命読んでいる。文字を読んでいる自分とそれを夢でみている自分がいる。不思議なことにぼくは自分を第三者として観察しているのだ。本の内容はわからない…

ジムノペティ

月が見えているが、それは怪我をした月だった。ぼくはトイレで用を足しながら、窓からその血まみれの月をぼんやり見ていた。妻は白目を向きながら熟睡しており、邪まな意識が常に背後を流れていた。 昨日薬局で買った居直り薬はフルヘインとサボカトルの混合…

明るすぎて何も見えない過去

確かここは幼少のころ一度訪れたことがあったのではないかと一生懸命思い出してみる。フラッシュバック。泣いてる自分、若い母の笑顔、土と潮の匂い、大きな岩、血のついたティッシュ。 断片が絡まりあい、一つの大きなうねりになりそうでならないもどかしさ…

シンギュラリティの犬

ぼくのおとうさんは、えすえふ作家です。いつもうーんうーんうなりながらパソコンのキーをたたいてます。そんなおとうさんをみて、おかあさんは「くだらない」と言っています。おとうさんのおかげで、ぼくたちが生活できているのに、なんてひどいことを言う…

『ご開帳』

町を貫く目抜き通りをゆくとまず目につくのが大きな球場で、そこでは毎年、軍艦奉行が集って全身の刺青を披露するという全国でもめずらしい催しがあるのだが、今年に限ってそれが花魁のご開帳になったというから、年が変わってからこっち、町の話題はそのこ…

夢の競演・・・・そして続編

ほぼ気を失いかけたところで、誰かのごつい手に抱かれて持ち上げられる感覚があった。だが、そこで意識は遠のきぼくは忘却の彼方に置き去りにされた。次に目が覚めたときには、ぼくはあたたかい部屋の中でふかふかのベッドに寝かされていた。顔がチリチリし…

天狗の死体

蔵の中にある死体が気になっていた。どうやってその死体と関わったのかはわからないのだが、とにかくぼくはその死体を発見されないように細心の注意をはらっていた。 だが、秘密は暴かれるためにある。ぼくの努力は報われることなく、秘密が秘密でなくなる日…

おいぼれチン・・・・・・。

「最初にしくじるのは尾を振る犬だけ」 男は人差指を天に向けながらのたまった。だぶついた吊りズボンに青いストライプの白襟シャツ。恰好からしてよくある宗教の勧誘などではないようだが、胡散臭いことに変わりはない。 浅黒い顔の下半分は針金のような髭…

スープが冷める前に

歩いても歩いても目的地に着かないジレンマに嫌気がさしてきたころ、まるでカーテンか何かをくぐりぬ けたように一歩で景色が変わり、その場所に到着した。 そこは燃える園だった。すべてが炎に包まれ黒々とした煙が渦巻き灼熱の空気が顔面に吹きつけてきた…

消えた書類

――― それをはやく出さないから会社が潰れてしまう。はやくしろ、お前。ほら、車に乗れ! と社長に怒られて助手席に滑り込んだのまではよかったが、いったいぼくが何を忘れて出さなかったのか がよくわからない。なんか非常に大事な書類をどこかに提出しなく…

隙間の女

洗面所で歯磨きをしているオレはいつものようにガシガシと激しく擦っているからこれまたいつものごとく歯茎から血が滲んできて、それはなんだか決まりごとのようになってるのでさほど気にせず鏡の中の自分を見ながらガシガシしてると目の隅で動くものを認知…

消えた彼女

当たり障りのない会話をしていたら、彼女が怒って部屋を出ていってしまった。 そしてそのまま戻ってこなかった。 ぼくが好きな彼女は、いつもいい匂いがしたし、笑顔がとても素敵だった。でも、それが普通に存在する 日々に埋没していたぼくは、それがどれだ…

猫は勘定に入れます。

股間を舐めながらスンヨは横柄に言った。 「ここまでこれたのも、みんなおれのおかげだろ?お前そこんとこよおくわかっとけよ!いまんとこ情勢 は落ち着いてるけど、いつまた急変するかわかんねえだろ?そしたら、またビビって、おれを頼ることに なるんだか…

聖ベアトリーチェの黒棺

今度逢うときは前世でね、と変な挨拶をして彼女は去っていった。西日に向って目をすがめながら手をふっているその姿に違和感をもったが、その時は何がおかしいのかわからなかった。 でも、よくよく考えてみると今日の彼女は確かにおかしかった。食事の最中に…

混乱と正義

楽しい時間は息つく間もなくすぎさり、あとには荒涼たるモノクロの世界が広がった。首のとれかけた人形を引きずったお姉さん。ずっと口が開いたままの男の子。どこを見ているのかわからないおじいさん。両手の人差し指をくっつけて、そこを食い入るように見…

ウッブ・ステーションの連接モグ

ウッブ・ステーションをとりまく連接モグは、人間の創造値を超えた建造物であり、それは見る者に脅威と畏怖をあたえるに充分な神の手になる光の神殿だった。舟に乗った者しか見ることのできないこの宇宙の蜘蛛の巣は総面積約4000万Km2、オールド・アー…

『湖の幽霊』

最近話題になっているアバダムの東にある『湖の幽霊』を見に行こうと友人たちと出かけることになった。コンウェイの安宿で腹ごしらえをした我々は、一路湖を目指して馬を駆けた。時刻はとうに夜半を過ぎたと思われる頃ダッツが首を傾げながら大きな声でおか…

戦争とトカゲ

タミヤのタイガー戦車のプラモが欲しくて、いつまでも眺めていたら店のおばちゃんが声を掛けてきた。 「ぼく、そのプラモデルがそんなに欲しいのかい?」 ぼくは驚いて振り返り、おばちゃんの顔をじっと見つめた。短く切った髪の毛をくるくるとパンチ・パー…

迷い子

県境にある大きな橋まで30分。ぼくたちは無言で車に揺られていた。途中、蛇行する川のほとりにある 小さなバラック小屋に寄って、じゃい吉じいさんの様子を見る。いつものとおり、じいさんはぷっくり膨らんだ腹から膿を排出するゴム製のドレンを垂らして眠…

宇須里マナと師緒乃レイ

嘘みたいだった。彼女の唇はやわらかく吸いついてきた。 すべての夜が流れ、星が消えさり、部屋に音が満ちた。素敵な夜だった。 理解がついていかない。すべてを脳裏に刻みこもうと思った。笑い声と汗。 まだだ。まだだ。おれは天に昇った。 中は熱い。すご…

見知らぬ子を追いかけて

悲しい顔をした子供がいた。歳の頃は三つ四つ、鼻水で汚れた顔をして恨めしげな目でぼくをみている。 ぼくは、どうしたの?と声をかけようとするのだが、どういうわけか声が出ない。必死にしぼりだそうと すると、アー、ウーと意味不明な唸り声になってしま…