読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

「四神足」

 悲しい気分がなくならないので、今よりハッピーになるようにお参りしようと出かけたはいいが、どこへ行けばいいのかまったく思い浮かばず、あてどなく歩いていたら、北へ二十里進んだところに大きな石の上にのった給油機があった。

 

 給油機なのである。しかし、周りに笹がうっそうと茂っており、給油機の背後には遥か上段に続く先の見えない階段があって、そこはかとない威厳を漂わせており、なんとも近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 

 とりあえず給油機の真正面に位置を移してみようと思うのだが、少しビビっている気おくれはあって、もしかして石をよじ登ろうとした途端に取返しのつかない罰が当たったりしないかな?という不安がなかったわけではない。

 

 しかし、心機一転という言葉を実践しなくては今の状況に変化は訪れないと自分を奮い立たせて石をよじ登った。

 

 と、

 

 階段の上段遥か彼方からドドドドドドドドドーッという地響きと耳を塞ぎたくなるような轟音が鳴り響いて、何かがこちらへ向かって下りてきたのである。

 

 それは足が四本ある神で、それぞれの足が関節の動きを無視したような回転をしてバラバラに動いており、裸の上半身には大きな乳房があり、それがタプタプと上下左右に無秩序に跳ねており乳首には金色の大きな輪っかがついていて動きの中で何回か左右が寄ったときに澄んだチーンという音を鳴らしていた。

 

 肩には左右とも人面疽みたいな(ていうか人面疽だろ、あれ!)がついており、それぞれが鉈と釘を咥えていた。

 

 頭は怒髪天を衝く燃えさかる炎のような赤い髪が猛り狂って波打ち、耳たぶにも大きな輪っかがぶら下がり、焦点の合わないいびつな目が血走ってこちらを睨もうとしているのだが、どうにもとらえられていないようだ。

 

 その神が(神なんだろうな?)給油機の裏側に到達して姿が見えなくなった。あれほどの轟音で地響きたてて下りてきたのに、すん、と姿が消えた。

 

 ?と思っていると、ヒョコっと給油機の裏から顔が出てきた。相変わらず目は合わない。どこを見ているのかわからない。

 

 「息災であった。四神足はわかるか?」

 

 わかるわけない。

 

 「であろうな」

 

 言ってないのに伝わった!!!!

 

 「あたりまえだ。神なんだから。四神足とは欲神足、勤神足、心神足、観神足といって四つの優れた瞑想のことをいう」

 

 ついていけないよ。

 

 「むべなるかな。まあ、はやい話がその四つの瞑想を極めると神通力を得ることができるのだ」

 

 そんな力は、近鉄の特急くらい必要ありません。そう言って、ぼくはその場を後にした。太陽を背にしているのに、ゆく道に影は落ちていなかった。